金沢探偵依頼日誌2

経済状況からスマホを持てない私はプリントアウトした地図を片手に犀川沿いをウロウロした。犀川堂はウロウロしてすぐに見つけることが出来た。歴史のありそうな古びた建物に「古書 犀川堂」という看板が付いていた。看板はサビサビの深緑色をしていていかにも老舗の古本屋だった。

店の前で店主と思しきオヤジが開店の準備をしていた。オヤジは店内から「全品100円」とデカデカと書いてあるカートを外に出している。私はさっそくポケットから依頼人から聞いた本のタイトルをメモした紙を取り出しメモを見ながらカートを覗く。カートには無い。まあ、当然だ。依頼人の亡き妻が大事にしていた本が100円で売られているなんてことは考えられないよな。私は溜息をつき店内へ入る。

店内に入るとさっきのオヤジが面倒くさそうに「いらっしゃい」と言い古本を丁寧に磨いていた。私は軽く会釈をしメモを見ながら本を探し始める。一つ目の棚、無い。二つ目も同じ。三つ目、やはり無い。もう一度今度はゆっくり一棚一棚舐めるように本を探したがやはり見つからない。私は腕組みしてひとしきり考えた後、覚悟を決めてオヤジにメモを見せながらこのタイトルの本を探していると相談した。オヤジはメモをジロリと凝視した後

「入荷してないねぇ。この本はとても希少な本だから数年に一度見かければいいと思うよ」とケロリと言い放った。

「いや、そんなはずはない。知人からこの本屋に売ったと聞いたんだ」

私がそう言った後、入荷したのを忘れているんじゃないかと聞いた。「例えばほら、その後ろに積んである本に紛れているとか」と訴えると。オヤジは馬鹿言うんじゃない。と答えた。

「何年古本屋やっていると思ってるんだ。俺は買い取った本は全てここに記憶している」

そういうとオヤジは髪の毛が薄くなった頭をコツコツと指で叩いた。そこまで言い張るならオヤジを信用するしかない。オヤジにもし入荷したら知らせてくれと名刺を渡し店を出た。出がけに「この辺で他に古本屋は無いですよね」と尋ねたるとオヤジは無いと答えた。この辺では昔から古本屋はウチだけだ。と。なんとも狐につままれた話だ。私は折角ここまで来たのだからと犀川大橋から川を眺めた。川面が日の光によってキラキラと光り水鳥が優雅に泳いでいる。私はぼんやり川を眺めてこれからのことを思った。

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