未完の書ー喫茶店にてー
「あっ喫茶店があります。優弥さんコーヒー飲んでいきませんか?」
駅前まで無言で歩いていたのに急に千鶴さんは嬉しそうに声を弾ませた。
「ええ、いいですね」
千鶴さんが落ち込んでいなくてよかった。私は安堵して喫茶店のドアを開けた。
店内は薄暗かった。店主が疲れた声で「いらっしゃいませ」と言った。私たちは席に着くとそれぞれコーヒーを頼んだ。
「無事に終わってよかったです」
「なんだか…残念でしたね。その、偽物…なんて」
私は口ごもりながら言った。言ったことで彼女が傷つかないか気になって仕方がなかった。
「まあ、偽物を渡しましたから、ね」
「へぇ?」
千鶴さんはフフンと鼻で笑った。
「コーヒーになります」
店主がコーヒーを持ってきた。千鶴さんはコーヒーを一口飲んで「美味しい」と呟いた。
「わかって渡したんですか」
「ええ。あの人にお渡ししたのは私が贋作士に作らせたものです」
そう言うとトートバッグから例の本を取り出した。本は日に焼けてボロボロで本当に古い本にしか見えなかった。
「メールで本について大変詳しく聞いてきたので、あの人は目利きで油断ならない人だと思いました」
私が驚いていると千鶴さんは「コーヒー飲まないんですか?冷めてしまいますよ」と言った。私は言われるがままにコーヒーを一口飲んだ。コーヒーが随分苦く感じた。
「それでは少しお話ししましょうか」
千鶴さんは今回の事件について話し出した。