聖夜の魔術師(上)‐金沢小風景⑨‐

諸君の中にクリスマスなどという異教の文化にうつつを抜かすものはおらぬだろうな。あのイベントはよくない。特に勉学を第一に考えねばならぬ学生には毒である。いや、なに負け惜しみではないぞ。本当だからな。この話は12月24日に金沢の片町で起きた出来事である。決して独り身の寂しい学生の妄想ではない。

11月某日。私は金沢の犀川大橋近くにある犀川堂という古本屋で来たるクリスマスを耐え忍ぶための本を吟味していた。古本屋は資金を持たざる学生にとって本当にありがたい店である。金沢では古くから営業しているここ犀川堂は室生犀星も学生時代に通ったとか通わないとか噂される老舗中の老舗だった。店の奥深くで私は一冊のノートを発見した。開いてみると10年以上前に書かれた日記だった。店主曰く金沢の学生が引っ越す時にこの店で蔵書を処分した際に紛れ込んだものではないかとのこと。人の不幸と日記が3度の飯より好きな私は俄然興味を持ち店のオヤジにこの日記を売ってくれと申し出た。するとオヤジはタダでくれるという。それでは申し訳ないと思い日記帳の隣にあった『人間臨終図巻』を買った。

自宅に戻りパラパラと日記をめくるとこれが意外に面白く折角だから日記の持ち主はクリスマスをどう過ごしたか気になり探してみた。どうやら持ち主には片思いの女性がいたらしく、その女性に振り向いてほしくて「日進堂」という摩訶不思議なモノを売る店でクリスマスの日に特別なことが起こる仕掛けを買ったと書いてあった。特別な仕掛けとはなんだろう。気になったがわからない。しかし、持ち主はヒントを残していた。店から仕掛けを買った日の日記に沢山の数列が羅列してある。どうやらこの数列になにがしかの仕掛けがあるらしい。面白いじゃないかこの謎解いてやろう。私は名探偵になったつもりで数列を解読し始めた。

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