未完の書ー豊丘炭鉱図書館にてー
その図書館は山中の獣道のような細い道を30分くらい歩いてようやく辿り着きます。今年は雪が降らないので、なんとか歩いて行くことができました。
豊丘炭鉱図書館。かつては炭鉱で働く労働者向けに設立された図書館ですが、炭鉱が閉山した後は特殊な本のみを扱う図書館として一部の図書に詳しい人たちに知られています。
玄関正面に古いカウンターがあり、おばあさんが1人ちょこんと座っていました。自動ドアが開き私が来館するとそれまで眠っていたおばあさんが目を覚まし「いらっしゃいませぇ」と気のない返事をしました。私はおばあさんに一礼して奥の本棚へ真っすぐ向かいました。この図書館は配架が特殊で最初のうちは困惑しますが、利用しているとコツが掴めてきて、普通は目にすることのできない貴重な本が私の前に姿を現すのです。そのコツとは本と小声で対話すること。ほら、見つかりました。
私は本棚から1冊抜き出し、閲覧用の席に腰掛けました。ページをめくると私の求めていた情報が次々と目に飛び込んできます。私はその情報を逃さずすくい取るようにノートにメモします。なるほど。そうか。やっぱり…。
私は本を閉じおばあさんに一礼して図書館を出ました。そして、またあの獣道を歩き家路へ急ぎました。自宅につくとすぐにパソコンを開き優弥さんにメールを打ちました。取引は来週末にしようと思います。その前に一度会えませんか。と。