日進堂にて‐月歩堂店主からの手紙‐

年末も差し迫ったある日、宛先不明の封筒が届いた。開けてみると手紙と栞が入っていた。栞は私が探していたものだった。私は手紙を開いた。丁寧な女性の字で次のように書かれてあった。

日進堂様

先日は石の本をお買い上げいただきありがとうございます。月歩堂でございます。本はお気に召していただけたでしょうか。もう、ご存知かと思いますが、その本は貴方のおじい様がお持ちだった本です。長年、当店に保管されていました。私の祖父が、何があっても決して手放してはいけない。それがたとえ元の持ち主であってもだ。と口を酸っぱくして話していました。祖父はやはり、貴方のおじい様がやったことを亡くなるまで許していませんでした。それは貴方も同業者ですし、良心があればお分かりいただけるかと思います。

しかし、それはそれ。私達は未来を生きてますし、これ以上、禍根を未来へ残すべきでは無いと考え手放しました。本来ならお互い面と向かってお話するべきなのでしょうが私自身、人とやり取りするのが苦手な性格ですし、貴方のおじい様の話を幼い頃から聞いており、同じ仕事をするものとしてやはり許せる話ではないと思います。

数年前に貴方のお噂は聞いておりました。優秀な骨董商ということも存じております。ですから同業者であれば、石の本が売りに出されると噂を流せば必ず貴方がお買い求めになると確信しておりました。そして、連絡先を渡すであろうことも。何故なら石の本はお送りしました栞が鍵となっており、栞が無ければ開くことができませんからね。長々と申し訳ありません。同じ仕事をしていれば、いずれお会いするかもしれませんね。それまでどうぞお元気で。それでは。

月歩堂 

私は手紙を閉じた。全て彼女の手の中で踊らされていたのだ。不思議なもので手の中とはいえ、小気味よく踊れていたからか気分は悪くない。私は石の本を本棚から取り出し栞をかざすと本がひとりでに開き、私にひと時の夢を見せてくれた。

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