文化財係橋本正太郎の憂鬱 金沢忍法帖3
金沢市文化課文化財係橋本正太郎はいらついていた。何故自分が休みであるはずの土曜日にこうして発掘現場の休憩プレハブにいなければならないのか。昨日の夜、急に上司から
「橋本君、明日の夕方なんだけど時間あるかな」
「い、いやぁ明日はちょっと大学の同期と飲みに…」
「あ、そう。じゃあ、飲み会前に頼まれ事をしてくれないかな」
上司の頼まれ事なんて大抵ろくでもないことだとわかっていた。しかし、下っ端の弱いところ。引き受けるしかない。
「え、あ、はい。どういったことでしょう」
「簡単なことだよ。月曜日に発掘現場で錆びた刀出てきたよね」
橋本正太郎は作業員のおじちゃんが、叫び声を上げて自分を呼んだことを思い出した。何かと思い駆け付けると錆びた刀が一点、おじちゃんが掘っていた土坑跡から出土したのだ。時代は恐らく幕末くらいだろうか。
「あーそういえば土坑から出てきましたね」
「それを明日取りに来る人がいるから渡して欲しいんだ」
橋本正太郎は大声で嫌だと言いたかったが、権力には屈するしかない。渋々承諾した。
……そんなことがあったのだ。橋本正太郎のイライラはもう頂点に達している。プレハブの窓からさっきからコソコソうろついている人がいる。恐らくあの人だ。サッサと渡して帰りたいのに一体何しているんだ。プレハブの戸を開ける。寒風が勢いよくプレハブの中に入り思わず身震いする。ウロウロしている人はサッと身を伏せている。もう訳が分からない。
「あの!すいません、そこの人」
イライラを声に込めて叫んだ。
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