雨が止んだ
風が強くなった。風は春と夏が入り混じった心地よい風だった。金城月夜は鼻歌を口ずみながら石をぺチぺチと叩いて
「はい。2人で押してみてください」
「え、えぇ…これだけ?」
丸澤圭一郎は疑り深い目で金城月夜を見た。金城月夜はさっさとやってよと言わんばかりに手をしっしと振った。大野陽太と丸澤圭一郎は力を入れて石を押した。すると、あら不思議!石はするすると動き出した。そして、空洞にピタリとはまった。
「はい!よくできました。これでオシマイでーす」
金城月夜はパチパチと拍手した。大野陽太と丸澤圭一郎は拍子抜けした顔で金城月夜を見た。丸澤圭一郎はここ数日の苦労が走馬灯のように脳裏を巡り気絶しそうになった。というか白目を剥いて気絶したかった。
「ねぇねぇ大野君、この近くに大きな手焼きのお煎餅を売っているお店があるのを知ってますか?」
「えー知らないですね」
「凄く美味しいんですよ。奢って下さい」
「あーそういうのはこのおじさんに奢ってもらいましょうよ。安定した公務員さんなんだし。あっついでに県立美術館のカフェにも行かないですか?なかなか行く機会がなくて…もちろん安定した公務員のおじさんの奢りで」
「いいですね。それでは参りましょう」
こうして、ここ数日金沢で起きた天気の異変は治まった。明日はきっと晴れるだろう。丸澤圭一郎は安堵したが、財布は空になった。
そして、さらに数日後、大野陽太は激怒することになる。面接をすっぽかし力を貸したというのに金沢市役所から埋め合わせとして送られてきたのは市役所食堂の3000円分の食券と「いいね金沢」とロゴが入ったスマホの画面拭きストラップだったからだ。大野陽太は知っていた。このストラップは成人式参加者に配っているものだ。恐らくその余りに違いない。
頭に来たから石浦神社に行き石を再びずらしてやろうと思ったが、石は全く動かなかった。百万石まつり初日の朝のことだった。