Baby's in black No.1

夏が始まり、ムッとする湿気が絡みついてくる随分不快な季節だった。
私は千鶴さんの家に郵便を届けにバイクを走らせていた。彼女の自宅兼店へたどり着くには山奥の細い道を何度もクネクネ走らせる必要があった。
道は昨日の雨でぬかるんでいたし、雑草は生気を取り戻したように大きくなりつつあった。
千鶴さんの家に着くと車が1台停まっていた「珍しいな」と呟きポストに湯便を入れようとすると玄関の扉が開いた。
「あ、こんにちは。郵便です。」
私はポストに入れようとした郵便をひらひらとやって彼女に手渡した。
「ありがとうございます。暑いですね」
千鶴さんはお辞儀をした。すると扉の向こうから一人の女性が出てきた。女性は千鶴さんによく似ていた。歳も彼女と近い感じがした。特徴的だったのはその女性は全身黒ずくめの格好をしていることだった。女性は涼しい顔をして軽くお辞儀をした。
「妹です」
千鶴さんは私に紹介した。「ああ、そうでしたか。いつもお姉さんにはお世話になっております」私は妹さんにお辞儀した。
「田所風花です。姉が…そうですか。ご迷惑をかけたりしてませんか?」
「とんでもない。いつも不思議な体験ができて楽しいです」
この言葉には嘘が無い。本当のことだった。私は2人に一礼をしてその場を去った。妹さん、千鶴さんに似てたな。私はバイクのスピードを上げた。

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