金沢忍法帖
今宵は新月。忍者寺として知られる金沢市の妙立寺。そこに忍者の格好をした男が一人準備運動をしていた。彼の格好は冗談ではない。彼は本当の忍者なのだ。ただしかし、この格好で昼間にウロウロしていたら市民から白い目で見られるだろう。
男には任務があった。頭領より建設前の金沢21世紀美術館の敷地にある発掘現場で見つかった妖刀を回収しなければならない。今度作られる金沢21世紀美術館の地下は元々金沢城の武器庫だったのだ。新聞では加賀藩が戊辰戦争時に集めた刀数点が見つかったと書いてあった。記事と一緒に掲載された写真あった刀の一つが加賀流言改方の目に留まった。金沢に悪影響を与えるものは残らず排除しなければならない。そこで加賀隠密部隊の出動となったわけである。
「事はしゅみやかにしゅ、しゅいこうフガ…遂行しなければならない」
90歳になった頭領はかつて加賀にその人ありと恐れられた孫崎善十郎である。
「まさか頭領も行くんですか?」
「お前はばぁかか。指揮を執るものがホイホイ動くわけがなかろうが。動かざること山のごとしじゃ」
「ですよね。言ってみただけです」
「忍びは余計なことは語るでない。沈黙すること森のごとしじゃ」
なんだかよくわからないが任務が始まる。
「よし、ゆけぇい」
統領が空まで届くような大声で掛け声をかけた。
「頭領、全然忍んでいませんよ…」
「うるさい、さっさと行け」