茂庭草介の始末書
「たらい回し」とは大きな組織のお家芸とも言える。そのたらい回しが巡り巡ってどういうわけか環境課の茂庭草介の頭にぶつかった。
ある雨の朝、茂庭は課長に呼び出され、5月某日どこに行っていたか聞かれた。「えーっと、その日は兼六園周辺の清掃作業をしてました…けど」茂庭が答えると課長が残念そうな顔をした。茂庭はわけがわからなかった。課長は茂庭の方をバンバンと叩き一緒に来るよう促した。
地下1階の普段使われていない会議室に連行されると部屋には3人の偉そうなオーラを出している人が席に座っている。1人は和服の老人、1人は中年の小柄な女性、1人は丸メガネの中年男性だった。3人とも茂庭と面識は無かった。男たちは茂庭が部屋に入るなり席に着くことを求め、茂庭が座ると話し始めた。
「5月に金沢の天気が荒れたことを知ってるね」
「はぁ、薄っすらと」
「我々は色々精査したところ原因は環境課にあると思っている」
「へ?」
「石浦神社に魔界に通じる穴があって普段は特別な石で封印しているのですけれど、どうもその石が動かされた形跡があるのです。それで調べてみると石が動かされた日は環境課が周辺を清掃していることがわかりました」
中年の小柄な女性はニコニコしながら話した。茂庭草介は嫌な予感がした。
「そんな話は初耳です。確かに兼六園周辺は清掃しましたが、石浦神社の何処にそんな石があるのかも知りませんでした」
「とにかく事は治まったわけだが一応、市としては再発防止に努めている所を市民に示しておかねばいろいろ都合が悪いわけだ」
和服の老人は腕組みしながら偉そうに言った。
「そういうわけだから始末書を書いて欲しい。詳細な資料なんて付けなくていいから。事件が起きてから収束するまでをまとめて欲しい」
丸メガネの中年男性は淡々と言った。
たらいはこうして茂庭草介の頭にぶつかったのである。
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