金沢忍法帖2

男は片町までバスで向かった。忍者は格好よく屋根の上を軽やかに飛び移り移動するなんてのは漫画での話で本物の忍者は市民に紛れ込み任務を遂行するのだ。

…というのは建前で、男は隠密部隊の中でヘマばかりするいわゆる窓際族だった。ガマガエルもオオダヌキも出せない。では何故、これほど重要な任務を男に依頼したのか。実は現在、加賀重臣会議が行われており、他の忍びは警備に忙しく手が回らないのだ。

「次は片町」

アナウンスがあったので、男は降車ボタンを押しバスを降りた。片町は往時の賑やかさはなくなったが、それでも夜の金沢を象徴する場所であることは間違いない。男がバスを降りると秋風が吹いた。男は身震いした。新月ということもあり、月明かりが無いと余計に寒く感じる。

よし。男は街中で準備運動を始めた。周りの人たちは何だこのおっさんはという目で見ているが、夜の片町は何でもアリなのだ。変な酔っ払いくらいの感じで男を見ていた。

男は準備運動を終え、歩き出した。目的地まで10分もあれば着くだろう。

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