未完の書-冬の海と骨董屋-
冬の海はとても美しくて、いつもその場に立ち尽くしてしまいます。言葉を想いを波がさらっていき空っぽになります。だから想いが溢れてどうしようもなくなったら私は海に行くことにしています。幸い、海の近くに友人が骨董屋を営んでいるので、ちょうどいい口実にもなります。
海を見た後に骨董屋のドアを開けると行くたびに不思議さが増しているような空間が広がっています。
「あら、だれかと思えば」
「お久しぶりです」
私は店主の博美さんの元に駆け寄りました。彼女は私の3つ年上の素敵なお姉さんです。
「1年ぶり?」
「ええ、そのくらいでしょうか」
「いつも冬に来るよね。もう少し暖かい季節に来ればいいのに」
「冬の海が好きなんです」
「へぇ、まあ確かに今の季節の海も素敵だけどね。あ、コーヒー飲みでしょう。ちょっと待ってて」
博美さんは店の奥に行きコーヒーを作り始めました。私はその間に店内を眺めます。机には見たこともない鉱物が標本のように並んでいます。このお店は鉱物を中心とした商品が主力なのです。
「それ、ノームが見つけてきた月光石。いいでしょう」
「ノームって妖精のですか?」
「そうそう。先代から彼らと取引しているからさ。やっぱり、人より妖精の方がいい鉱物を見つけてくるね」
素敵です。月光石は光に当てると吸い込まれそうな黄色が鈍く輝いてます。
「さ、できましたよ。どうぞこちらへ」
「ありがとうございます」
コーヒーを飲みながらしばらく雑談した後、私はバッグから例の本を取り出し経緯を話し始めました。