迷走金沢人生の袋小路-闇夜の金魚釣り編-

空を泳ぐ金魚は金沢大学近くの山の頂にあるらしい。ここは綺麗な星空が見える金沢市民ならば誰でも知る有名なデートスポットである。オンボロの軽トラをガタガタ揺らし山頂に着くと随分と綺麗な星空が広がっている。満天とはこういう空のことをいうのだろう。

金魚屋のオヤジは釣り竿とバケツを軽トラから取り出し崖にドカリと腰掛け「釣るぞぉ」と言うので私は自分の釣り竿とバケツを用意しオヤジの隣に座った。竿の先には糸が垂れているだけで針も付いていない。オヤジは糸の先にカリントウを結び付けた

「金魚はこの夢で作られたカリントウが好きなんだ。これで釣る」

オヤジの言っていることが全く理解できなかったが、そもそも空を泳ぐ金魚を釣ろうとしているのだからその時点ですでに荒唐無稽である。私は素直にオヤジに従った。オヤジが崖から糸を垂らし、竿を小刻みに動かすとあっという間に金魚が釣れた。その後も次々釣れる。私はオヤジと同じようにしているつもりだが少しも釣れない。

空が白みだしてオヤジがそろそろ帰ると言い出した。オヤジのバケツには金魚が満杯になっているが私は1匹も釣れない。「言っとくが金魚はやらんからな」オヤジは冷ややかに言った。私は眠気でぼんやりしている頭で考えた。念だ。念じるしかない。釣れろ釣れろと小声でブツブツ言いながら竿を振る。すると竿の先が小刻みに震えるこれはもしやと思い竿をグイと上げる。糸先には金魚がカリントウを食べようと必死になっている。釣れた。オヤジに喜びの声を伝えるとオヤジはああそうと言い「じゃあ、バケツに入れて」と再び冷ややかに言った。「あ、はい」私はなんだか恥ずかしくなってバケツに金魚を入れた。

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