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遺体無き殺人8

事件は動き出す
昭和7年11月12日未明。
自宅で寝ている高蔵夫婦を警察は逮捕しました。警察の厳しい追及に最初はのらりくらりしていた高蔵でしたがさすがに耐えきれず15日夜に犯行を自供し始めました。
「いろいろとお手数をかけましたが、実は見知らぬ男から依頼されて伴蔵の死体を焼きました。その男は殺す気じゃなかったが、喧嘩から殺したような次第でして、何とも困るからそーっと焼いてくれとて無理矢理56円の金を掴まされました。その日は12月26日あたりで、男に依頼された場所は八幡様の前でした。実は年の瀬でお金に困っていたので承諾したような次第です」
この自白によって捜査陣はにわかに活気づきました。しかしながら新たな疑問が浮かびました。いくら高蔵が金に困っていたとはいえ、56円程度のお金で殺された死体を火葬するなどという危険な真似を犯すだろうか。警察は高蔵に対してさらに厳しく追及をします。すると高蔵はついに
「その男というのは伴蔵の隣に住んでいる柴田長太であります」
と白状しました。高蔵は家族が8人いて火葬夫の月給は30円で生活に大変困っていました。「焼いてしまえばバレることはない」との長太の誘いに乗り伴蔵の小屋から600m程離れた火葬場へ運び焼き捨てたのです。
「長太、柴田長太・・・」
聞いたことのある名前でした。進藤部長刑事と菅原刑事はハッとして互いに顔を見合わせました。柴田長太は容疑者として名前が挙がっていたあの柴田長太だったのです。

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