金魚も時には空を飛ぶ4

生物とは生命とは実に不思議なものであるな。監禁されて4日目の朝、館林教授は部屋をプカプカと浮遊する金魚を眺めながら感慨にふけった。

金魚が空を飛ぶのに必要だったのは卯辰山で採れる特別なイトミミズだった。これを一日中与え続けると金魚が少しずつ水より空を欲するようになる。そしてやがて空を飛ぶのだ。

扉が開きパチパチと拍手する音が聞こえる。振り向くと学長だった。

「素晴らしい。実に素晴らしいよ舘林君。これこそまさに現代科学を超越した代物だ」

「あ、ありがとうございます」

「そうだ。報酬をやろう。君が食べたがってたかわむらの甘納豆だ」

学長はそう言うと今度は箱入りのかわむらの甘納豆を教授に手渡した。館林教授は疲れ切った声で「ありがとうございます」と呟いた。

「あの、これでもう役目は済みましたよね。帰ってもいいですか」

「もちろんだとも。ゆっくり休み給え。自宅まで加賀流言取締方に送らせよう。信号に引っかかることなく自宅まで直行できる」

学長はもう一度手をパンパンと叩くとどこからともなく「御用…御用…」と声が聞こえてきて屈強な狐面の男2人が館林教授を拉致していった。

「クックック…これで前田様の覚えがめでたくなる。そして、いずれは私が市長に…」

学長は自分の未来に笑いが止まらなかった。

…………

館林教授は気がつくと自宅の床に倒れていた。今までのことは酔って眠って夢を見ていたいただけかもしれないと思ったが、明らかにここ数日の肉体的・精神的疲労があの監禁生活を身体が刻印している。ぼんやりとした意識で電話を掛ける。数回のコール音の後に面倒くさそうにネズミが電話に出た。何事かをネズミに話す。ネズミは今度は興味を示してくれた。そして、面白いから依頼は無料で引き受けてくれるという。何て優しいネズミだろう。教授は電話を切ると再び眠りについた。起きる頃には大騒ぎが起きているだろう。

その日の夕方のニュースで館林教授の勤務する大学の学長が大学の資金を流用し片町で金沢の大物政治家を接待していたことがリークされたと報道され数日後には学長を辞任する会見を開くことになった。どこからリークされたのかわからない。ある新聞記者は学長が会見の最後に「あのネズミめ」と怨念の籠った声で呟いたのを聞いた。


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