業者市にて①

月に一度開催される業者専門の市に半年振りに顔を出しました。私は人が苦手なので、あまりこういった人が集まる場所には行きたくなかったのだけれど、在庫が心細くなったので、意を決したのです。

会場は取り扱うモノがモノだけに人に知られないように細心の注意を払われています。薄暗い通路を抜けるともう数人の業者がボソボソと商談を始めていました。

「お、月歩堂か。珍しいな」

すらりと背の高い老紳士が私に話しかけてきました。幻想堂の篠崎さんです。

「ぉ、お久しぶりです。篠崎さん」

私が頭を下げると篠崎さんはニコリと微笑み

「日進堂に会ったんだって?」

「いえ、私は直接会ってません。お手伝いいただいた方に対応していただきました」

「あぁ、そうか。ま、これ以上関わらないことだ」

そう言うと篠崎さんは私の頭を軽く撫で去っていきました。彼は私が幼少の頃からお世話になっている身内のような存在です。篠崎さんがいるとわかると心強くなり、少し安心しました。

長机には出品しているモノがずらりと並んでいました。私はそれらを一つ一つ吟味していきました。こういった市は業者通しの真剣勝負でもあるので、私も真剣です。ここの所、月歩堂に相応しい商品とは何なんだろうと悩む日々が続いていました。何かヒントになるモノがあれば…あ、これは。

「お嬢さん、興味があるかね」

私の目に留まったのは手のひらサイズの瓶です。瓶の中では竜巻のようなものがヒュル…ヒュルと低い音で回っています。

「これは、カマイタチですか?」

「そうだよ。正確には尻尾だけではあるけど。昨年の台風の時に見つけたんだ」

私は頷き瓶を眺めて少し考えてからこれにしようと思いました。

「これ、お願いします」

「あいよ。現金にするかい?」

業者市では現金購入か自分の商品と交換するか選べるのです。

「あの、私、これと…」

私はおずおずとこの間、宇都宮で仕入れた雨の本を差し出しました。すると会場はどよめきだしました。私は驚いて周りをキョロキョロ見回しました。



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