金沢忍法帖4
「そこの人」
と言われ男はビクリとした。自分の忍びの技術は完璧だと思っていたので、いとも簡単に見抜くとはなかなかやる。流石、金沢市の職員だ。恐らく忍びの技術を見抜く訓練を積んでいるに違いない。ここはひとまず退くか?どうする?
「あなた、出土品を預かりにきた人ですよね。何やっているんですか。早くプレハブに来てください」
「あ、はい」
男はすごすごとプレハブに向かう。プレハブの明るさに一瞬目がくらんだ。市の職員はカラーコンテナを机に置いた。中には錆びた鉄の棒みたいなものが綿に包まれていた。
「これが妖刀…?」
男はゴクリと唾を飲む。成程、こいつは禍々しいオーラを放っている。
「妖刀?何言ってるんですか。小刀ですよ。上司に渡すように言われました。早く持っていってもらえますか。ここもう閉めるんで」
男は職員がぐいと押したコンテナを両手で慎重に持つ。コンテナの重さか妖刀の重さかわからないが男の両腕にズシリと重さを感じた。
「気を付けてくださいよ。貴重なものですから。無くしたり壊したりしたら始末書どころの話じゃないですからね。聞いてますか?ねぇ?」
「ありがたく受け取りました。慎重に隠密に任務を遂行します」
「はい、ご苦労様です。さ、閉めますので帰ってもらっていいですか?」
男は閉め出された。しかし、そんなことは気にしない。この妖刀を届けねばならない。男の人生で初めての一世一代の大仕事である。任務が成功した暁にはこの偉業を子々孫々に伝えねばならないだろう。タイトルは何がいいだろう。そうだ『金沢忍法帖』なんてどうだろう。男は武者震いした。
「あんた。まだいたのか。早く県立博物館に届けてきてよ。向こうだってまってるんだから。まったく」
「あ、すいません」
男は慎重に隠密に歩き始めた。