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江國香織「いくつもの週末」


久しぶりに読了本の感想noteを書こうと思う。

最近読んで、ずっと記憶に残っているのが、江國香織さんの「いくつもの週末」。

何編かに分かれたエッセイになっているが、私が特に気に入っているのは、旦那さんとの週末について書かれた部分だ。


好きなものをいくつか紹介しようと思う。


甘やかされるということについて

まずは、前述の題で書かれた一編。

江國さんは、旦那さんとの生活を、つまりいわゆる結婚という形を選んだことについて、「甘やかされる」という言葉を使って語っている。

正しくなくてもいいからどんどん甘やかして、夫がいないと何もできないというふうにしてほしい。
そうすればここにいることが私の必然になるし、逆にいうと、そうでないとここにいる必然性がなくなってしまうのだ。
隣同士に住んでいる恋人同士でなぜいけない?

江國香織「いくつもの週末」,p139-140



結婚したからには、正しいか正しくないかなんてどうでも良くて、

お互いにひたすら甘やかし、甘やかされることによって、
結婚ということに意味がもたらされる、ということのようだった。

江國さんにとって、お互いがいてもいなくてもやっていける2人組は、同じ家に住む必要がない、隣同士に住んでおけということなのだ(そこまでは言っていないかもしれないが)。


私はこの文章が特に気に入っている。
別にひとりでも生きていける人間が、せっかくふたりで生きていくことを選んだのだから、それならばどっぷりと浸かってしまおうという考え方が、美しいと思った。


何よりも、「依存」について肯定的に語ってくれた江國さんが、好きだと思った。


この本によると、江國さんの旦那さんは自分で水を飲まず、飲みたくなったら江國さんに「水」、と言うらしい(そして持って来させる)。

X(旧Twitter)で見かけたら「うちの旦那は本当に家では役に立たない」のような書き方をされているだろうという気もしなくはないが、

江國さんはすごく愛おしそうに、甘えん坊なの夫は、というようにこれを書いた。

そういう考え方ができるような、旦那さんとの関係性を、羨ましく思った。


キープレフト

もうひとつ気に入っているのは、「キープレフト」と題した一編。

こちらは、今まで江國さんの作品を沢山読んできた私が、ひとりの女性としての「江國香織」を感じることができた一編だ。

「お風呂に入るまで、ベッドに入ってこないで」
私はしばらく知らん顔を決めこむが、そのうち不安になってくる。
気がとがめもするし、なんだか矢鱈に淋しくなって、夏ならタオルケット、冬なら布団と枕を二つ持ってしまいには居間にいく。

まず、寝ている夫の頭の下に枕をはさみこみ、隣に自分の枕をおいて横になる。
不思議なことにぐっすり眠れる。
夫にぴったりくっついて。

江國香織「いくつもの週末」p151



これを読んで、江國さんの女性としての一面を見てしまった!と思った。可愛すぎる。

意地を張ってしまったあとに、やっぱり甘えたくなる江國さん。自分にとっての落ち着いたところに、戻りたくなる江國さん。

ベッドで眠るのが落ち着くんじゃなくて、好きな人の隣で眠るのが落ち着くんだろうなあ。



RELISH

次は、こちら。この一編で、江國さんが旦那さんをどう思っているかが分かる。

“devil's food”--文中で説明されるこの言葉は、「分かっているのに避けられない飲食物」のことを指す、つまり、アルコール中毒者にとっての「アルコール」のようなものらしい。

江國さんにとっての“devil's food”は「アイスクリーム」と書かれており、そのあとはこう続いている。

もっとも、それを読んだとき、私はアイスクリームなしの人生を選ぶくらいなら、悪魔に身も心も委ねよう、と決心したのだったけれど。
夫は、たぶん私の“devil's person”なのだろう。

江國香織「いくつもの週末」p157



江國さんにとって旦那さんは、分かっているのに避けられず、でも、それなしで生きていこうとは思わない、みたいな人。

そんな人に会えるなんて、なんて幸せなんだろう。


私にとっての“devil's food”は、きっとカフェラテ。

私にとっての“devil's person”は、誰なんだろうなあ。


週末を振り返る


江國さんにとっての、「いくつもの週末」を垣間見ることができた。

少しだけ覗かせてもらって、なんだかとても、素敵な気持ちになった。

私にとっての、「いくつもの週末」ってなんだろう?


独身20代の週末って、どんな感じ?

ひとりで庭の植物を愛でたり小説を読んだりする、他愛もない週末。

夜に集まって朝までノンアルコールで音楽を聴いて、お疲れ様でしたと言って始発で帰る週末。

体調不良でドタキャンをして、ベッドの上で泣きながらひたすら眠ろうとする週末。

昼過ぎまで眠り続けて、私から解放された好きな人がお昼ご飯をつくる音で目が覚める、かつての週末。

私も、いろんな週末を持っているし、持っていた。

皆にも思い付く週末があるだろう。


悲しい週末も、嬉しい週末も、それぞれの心に残り続ける。
皆にもいつか、少し教えてもらいたい。


今日のうた

真っ逆さまに
I'm falling love
愛しのあなたに 落っこちる
季節は巡る ぐるぐる 咲いて散る

yonawo/Falling


あとがき

どこもかしこも、桃や桜や芝桜、木蓮、ミモザ。綺麗ですね。


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