【牧羊犬】多くの種類の中からピッタリを見つけるまで
牧歌的なカナダの田舎に欠かせない牧羊犬と牧畜犬ですが、何種類もの中から家畜の種類に適した犬を探します。
たとえば牛のファームなら、heeler:牛の踵(ヒール)を軽く噛むなりして群れを誘導する犬。オーストラリアン・キャトル・ドッグが有名です。
近所のファームにはその犬がいますが、牛に蹴られて片目が見えなくなったらしいとか、歯が折れたとか。人間が蹴られた場合、死亡事故まであるので、体を張ってくれる貴重な犬です。
日本での牧羊犬というと「過去にそうだったので、たくさん運動させてあげましょう」「賢くて頑固な一面もあるので、根気よく躾ましょう」かもしれません。
現役のカナダでは運動量が半端なく、ペットと比べ短命になるので、ファームでは多頭飼いと交代制が多いです。
うちにはヤギとニワトリがいますが、犬に限らずこの記事には動物がたくさん出てきます。一本道の終点で手つかずの自然と隣合わせのファームをイメージして読んでください。
◆カナダで人気の牧羊犬
白い毛並みがふわっとした大型犬で、
ピレネー、マレンマ、アクバッシュが代表的。
定番に対する信頼と、野生動物に白はいない、クマと見間違えない、などの理由です。黒っぽいと遠目に見たときに、人間はドキッとするし、特に守られる側の家畜は目がいいので、犬ですら怖がる場合があります。
大型犬と中型犬。実は中型犬のほうが運動量が多く、食事量はほぼ同じです。大型犬は必要なときにのっそり動く傾向で、堂々とした風格が好かれるようです。
カナダで農業に向くのは南部だけで、以北は牧草地と森林地帯。清涼で山がちな気候に合った犬は長毛種が多く、冬の寒さに強いのです。
◆強さと賢さで天敵に怯まない
北米大陸には家畜の天敵といえる野生動物が多く、クマ、オオカミ、コヨーテ、キツネ、クーガー(別名ピューマ←クマより怖い)、リンクス(オオヤマネコ属)、イタチ類。
大きな野生動物を相手にできる犬には持久力、勇敢さや判断力がある。自分のテリトリー内の家畜を守ることを使命と感じます。
◆家畜を襲わないこと
牧羊犬が? 仔犬のころに一部あります。動くもの(人や車も含めて)を反射的に追うのは犬の本能。これを防ぐトレーニングとして8〜12週齢から家畜と一緒に過ごさせます。
だいたい16週齢までに犬の生涯の社会性が決まる。
そのためのトレーニング法がネットにも紹介されています。
例として・電気式の首輪
・鎖と併用
・飛びかかろうとすると食込む首輪
・スプレーをかける
うちはそれらを使用しません。子ヤギに飛びかかろうと目をギラギラさせた犬をトレーニングしても衝動です。将来襲う可能性を捨てきれないので、その犬はペットとして可愛がりたいと言った人に譲りました。
賢い犬はトレーニングしなくても、生まれながらに家畜を襲わないし、野生動物との区別もできる。何匹も仔犬のころから飼育しているうちに、向いている犬がわかってきました。
◆牧羊犬の性格
「マインドが広い」と表現されます。
自分のテリトリーの中に存在するもの
⇒家畜とファーム、人間と家
→点在するものを薄く広く守りたい
牧羊犬に独立心が強く、人間からすうっと離れていってしまうのも、その性格からだと思います。人間よりも動き回る家畜のほうが好きなように見えます。
しかし、ヤギを置いて放浪する癖の牧羊犬がいました。鎖で繋いでしまったら意味がないので、その犬はうちよりもさらに広く、家畜の頭数が多いファームに引き取ってもらいました。
羊が100頭に対し、犬は1匹がちょうど良いといわれています。広さはあっても、うちには10頭以下のヤギしかおらず、さぞかし退屈していたと思います。
山羊と書くのは山が好きで、フェンスがなければ山の中を樹皮をかじりながらどこまでも遠くへ行ってしまいます。フェンスで囲う以前の話、うちの裏山にあった山桜が被害に遭ってほぼ全滅……。
ヤギを満足させるために私たちが牧草地に設置したフェンスは広大で、向こう端を見るのに双眼鏡が必要なほど。牧羊犬はその端まで行くと、なかなか帰って来ないものです。
◆ニワトリを飼い始めて問題発生
最初ファームにはヤギしかおらず、優秀な牧羊犬を探すことを重視していましたが、どれも守備範囲が広い。逆に家の近くにいるニワトリが手薄になって、キツネに盗まれました。
ヤギは大丈夫だけど、ニワトリは小さくて野鳥との区別ができない、という牧羊犬もいました。ニワトリは最難関の家畜といわれています。
もしニワトリにフェンスを建てるなら2m必要です。しかも建てたところで、空からは天敵のタカやワシも。
うちの鶏舎は山林が近く、傾斜や凸凹地に高いフェンスを張れないので放し飼いです。しばらくの間、ニワトリを守るには自分が外に出て立っているしかなかったです。
他にも問題がありました。
飼い主との相性(夫のコマンドは効くのに私のは無視)。
1匹はヤギ、1匹はニワトリなんて、都合よくなりません。ボスを決めるケンカもあり、または群れて気が大きくなり、遊びに夢中で一晩中帰って来ませんでした。
◆フェンスは何のために?
どんなに丈夫なフェンスもクマにかかれば簡単に押し倒せます。オオカミやクーガーはフェンスの上をジャンプできるそうだし、キツネは下の地面を掘れます。結論からいうとフェンスは、中の家畜の脱走防止です。
この辺の人たちはフェンスにあまり力を入れません。広い土地に支柱はせいぜい1mくらいで、上下と真ん中に有刺鉄線を3層張っただけ(脱走防止を気遣う人は電気を流してありますが)。
うちの場合はヤギなので、もう少し頑張って1.5mのフェンスを建てました。木々をかじる山荒らしがジャンプできない高さです。
日本なら家畜は厳重管理と思います。しかし、カナダは大らかで、もし家畜が脱走しても、お互いがファームです。うちの近くには川があるので時々、迷い牛や馬が訪れます。(蹴られると怖いので近づかず放置)
また犬をフェンスで囲う人はほとんどいません。犬の賢さに任せ、普通フリーです。
川向うの牧羊犬も見かけたことがあります。自分のテリトリーのちょっと先まで知りたい好奇心、または視察? たぶん、うちの犬も川向うへ時々行っていると思います。
◆定番の牧羊犬に頼ることの問題点
白いほうがいいからと言って、そればかりを掛け合わせていくうちに、遺伝的な弱さが出てきます(ヒフ疾患やアゴの力が弱くなる)。カナダ国内では近親交配をしたつもりはなくても、何処かで繋がってしまうとのことです。
また股関節症や眼疾患なども。人気の犬種だからとムリな繁殖があったのだと思います。
うちで飼っていた牧羊犬にこれらの疾患はなくても、どうせ飼うなら繁殖で、次世代犬とファームを続けていきたいです。ニワトリにも適し、なおかつ血統をきちんと追える犬を見直すことにしました。
◆マルチタスクの兼用種を探す
番犬(Guard Dog またはWatch Dog )の中にも牧羊犬としての仕事ができる犬種がいます。そのタイプが良いのは、家と家族を熱心に守ろうとする傾向で、それなら私のコマンドも有効です。
兼用種のマインドは、守る範囲の中心に重点を置き、離れるほど薄まっていく感じ。ヤギはフェンスで囲われ、点での移動はありません。フェンスの外からヤギを守り、あとは野鳥とニワトリの区別ができる賢さがあれば。
シェパード犬は賢くて、警察犬にも採用されるほど。ジャーマン・シェパードが有名ですが、ロシアのシェパードのほうがさらに体格が大きく、クマとも渡り合えると思い、本場から厳選した犬を輸入してくれる業者を仲介にして、うちに迎えることにしました。
うちに来たのは、コーカシアン・シェパード(別名:コケイジャン・オフチャルカ)。被毛の色より、性格で選んだので黒っぽいです。
川沿いを歩いて来たハンターにクマと間違われたら困るので夜間リリース。夜行性の野生動物にも彼の重低音の吠え声が響き渡っていると思います。
今までに3度、コヨーテとやり合ったような軽症がありました。他の外傷は見当たらないので、オオカミなどの大型獣とは直接対峙しないようにしているはずです。
ちなみに彼のほうはヤギが好き。しかし、雌ヤギは、やはり黒くて嫌がります。1頭が怖がると伝染するように全員が引きますが、雄ヤギは平気そうにしています。
ようやくうちに適した兼用種ですが、ペアになれる同種がもう1匹見つからず、この大型犬とケンカにならないような兼用種の中型犬を導入することにしました。
それがカタフーラ・レパード犬。ペアでキープして午前午後、別々にリリース。
こちらの犬種は他の記事で紹介します。
◆犬に頼りすぎないこと
野生動物にもテリトリーがあって、その中でじゅうぶん食料を得られているか? 私たちが第一に考えることです。
私有地にハンターを入れません。野生のシカやエルク(ヤギのフェンスの向こうで時々見かけます)が狙われ、オオカミやコヨーテの食料に影響します。
またクマには野生化したジュンベリーの元果樹園を提供しています。川にはトラウトもいる。おとなしくヤギの向こうで一緒に草をはんでいられるのも、そのおかげだと思います。
共生できるのは自分のプロフィールに書いた通り、営利目的でないからです。犬の負担も最小限にできます。
森林保護で野生動物の住処を守る。ヤギを増やせば温室効果ガスです。うちで消費するぶんの頭数に限定しています。
◆おわりに
うちが兼用種に決めたあと、前の犬の譲渡先を探すあいだ7匹が同居。多いので鶏舎裏の林に鎖で順番に繋いで、キツネ対策にしてみましたが、巧妙に隙を突かれていました。それが現在、コーカシアン・シェパードがキツネを捕らえ、カタフーラ犬が追い払い、3匹で問題解決できています。
犬も人間も家畜も最低限だと静かです。それが自然とバランスをとるための方法になると思っています。
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