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介護業界分析 難解な介護報酬制度

こんにちは、ペースノートの野尻です。
介護業界は「介護保険法」に基づき、「○○のサービスを行うと、△△円保険請求できる」という制度ビジネスをしています。
医療制度と非常に似ており、お医者さんでの会計の際にもらえる「診療明細書」で行われている金額の計算とほぼ同じ考えてよいかと思います。

そのため、介護報酬制度の理解と、3年に一回行われる「介護報酬改定」の理解が不可欠なのですが・・・。今回は、現場の介護職員・管理者を悩ませる介護報酬制度の難しさについてお話しできればと思います。
少し難しい内容になりますが、お付き合いいただければ幸いです。


「基本報酬と加算」という構造

介護報酬は、主に「基本報酬」と「加算」でできています。

「基本報酬」とは、ショートステイや通所介護など、サービスを提供する施設の基本料金のことです。
添付の厚生労働省の資料が分かりやすくできていますが、「基本報酬」については施設が運営を始めるとほぼ変化がありません。

例えば、特別養護老人ホームと併設するショートステイで、多床室に、要介護2の人を受け入れると、表のとおり1日当たり654単位と決まります。(2024年の報酬改定後、現在は672単位)

地域によって異なりますが、1単位当たりおよそ10円強をかけて、報酬額が決まるしくみになっています。

厚生労働省 社会保障審議会 第180回介護給付費分科会(令和2年7月20日)より抜粋 https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000650020.pdf

加算とは

他方で、「加算」は施設のサービスや運営努力に対して、基本報酬に加えて請求することができるものです。

牛丼チェーンの吉野家で例えれば、基本サービスである牛丼が「基本報酬」です。
トレーや紅ショウガなどの提供は、基本サービスの一部です。それに対して、卵、みそ汁など、追加でお金がかかるものが「加算」です。

介護現場での分かりやすい例では、ショートステイに「送迎加算」という加算があります。
これは、ショートステイに泊まりに行く際、施設の職員が迎え、送りを行う場合には、基本報酬とは別に「送迎加算」として184単位(≒1840円)を算定します。
このうち、保険負担分を引いた額が、実際に利用者が支払う額になります。

また、厚生労働省が政策的に施設にやってほしいことも、加算として報酬に組み込まれることになります。

難しい加算の例(喀痰吸引の実施割合)

さて、ここまでで基本的な介護報酬の構造と、加算の例についてお話してきました。

加算の中には非常に難しい解釈を必要とするものが少なくありません。
例えば、老健(介護老人保健施設)の「在宅復帰・在宅療養支援機能加算」の中の「喀痰吸引の実施割合」。

この加算の政策的意図は、比較的軽度な入所者に対して在宅復帰させるためのリハビリ機能を充実させつつ、医療ニーズのある入所者に対しても医療資源を活用することを両立してもらおうということです。

老健は医学的管理を行う施設であるため、痰の吸引が必要な要介護者をしっかりと受け入れ、喀痰吸引を実施させることを目的とした項目が、「喀痰吸引の実施割合」です。

加算の趣旨も難しいですが、この「喀痰吸引の実施割合」の計算方法はさらに複雑です。

①介護保険法関連法令における記載
まず、介護関連の加算について理解したい際には、「介護報酬の解釈 1.単位数表編(通称青本)」を参照するのが、介護業界の習慣です。

喀痰吸引の実施割合については、「介護保険施設サービスの施設基準」に基づいて、以下のように点数が規定されています。

I 算定日が属する月の前3月間における入所者のうち、喀痰吸引が実施されたものの占める割合が100分の10以上である場合は5、100分の10未満であり、かつ、100分の5以上である場合は3、100分の5未満である場合は0となる数

介護保険施設サービスの施設基準より抜粋

「喀痰吸引を実施した方が10%以上であれば5点もらえる」ということが分かれば十分だと思います。

②実際に市町村等に提出する書類
「在宅復帰・在宅療養支援機能加算」を取得するために、老健施設は市町村に対して計算シートを提出します。例えば喀痰吸引の実施割合に関する箇所は以下のようにできています。

愛知県庁ホームページより抜粋
https://www.pref.aichi.jp/korei/kaigohoken/application/form/kasan-betten/be17.xls

「入所者」の定義が突然難しくなりました。単なる人数ではなく、「入所者延数(毎日24時現在入所中の者)」とあります。つまり、単位は「人」ではなく「人・日」です。
また、私もよく質問をいただきますが、喀痰吸引を実施しているタイミングは、前3か月のどこかであればよく、1か月ではないということのようです。

④Q&Aという存在

さらに難しいことに、介護制度にはQ&Aというものが存在します。これは、法令だけでは明確になっていない(時には書かれていない・・・)際に、厚生労働省がQ&Aという形で考え方を通知しているものです。

ここでは内容は割愛しますが、添付のリンクは「喀痰吸引の実施割合」に関する内容になっています。

どうすればよいのか

ここまでお読みいただいた皆さま、ありがとうございました。
このように、介護業界には解釈が難しい加算が多く、また報酬改定時には事業所に関わる加算を読み解かないとならないため、ほぼすべての介護事業者の大きな負担となっています。

事業所の方々は、まずは所属している団体に問い合わせることをお勧めします。全国老人福祉施設協議会(老施協)や、全国老人保健施設協会(全老健)は特設ページや問い合わせ窓口を用意しています。


また、ペースノートには官公庁の出身者や介護現場の出身者も複数所属しており、政策研究と現場での活用方法に精通しています。
システムでは難しい加算の自動計算機能も搭載しています。

お困りのことがございましたら、ぜひご相談ください。


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