歩幅をひろげて
膝の裏側がくすぐったくなるような格好は、未だに私の心臓を波打たせる。駅前にたちはだかる横に大きいスカウトを突っ切るように歩幅を広げる。
お姉さん
そう声をかけられるが、更に歩幅を広げてみる。
iQOS特有の匂いが少し鼻につく溜息を聞くか聞かないかのところで、私は震えが止まらなくなる。
小4くらいからスカートを禁止されていた時期があった。
膝の裏側を撫でるような、軽快な生地が私を笑ったように感じた。
お姉さん
紛れもなく私のことだろう。若い女性を指すその言葉の当事者であることが酷く、窮屈であるように感じる時がある。
女の子らしい服が好きだ。どんなに軽快な布であろうと、私を撫でるそれは、ディズニープリンセスのように私を守ってくれる。
幼稚園バスから見える、教会やお城のようなホテルが大好きだった。
味気ないコンクリートだらけの道を異質に彩ってくれて、私はそこでお姫様になれるのだと信じてやまなかった。
だから周りより早くに背が高くなり、体重が重くなる自分が憎かった。
穢れがないものを人は求める。
純度が高ければ高いほど、価値がつく。
それがたとえニセモノで塗り固められたものであろうと、関係なく欲している。
私はギリ心の奥底に守らなければいけないものがあると思う。口の中でチョコレートを転がす時に最後に残る欠片のようなものだと思っている。
きっとそんな塊を残している おんなのこ はこの世界のどこかで歩幅を広げているのだろう。
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