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高級すき焼きご飯は、幸せと気まずさの味がした

明日は文学フリマなので、東京に前乗りしている。ホテルに泊まると、いつも夕飯をどうするか迷ってしまう。お酒も飲めないし、量も食べられないから、一人でふらっと行ける場所を見つけられず、せっかくの旅先でも、チェーン店やコンビニご飯で済ませてしまうことが多い。

しかし、今日のわたしは一味違った。原稿を終わらせた達成感と、祭りの前日の高揚感が、わたしの気を大きくさせた。

いつもなら、美味しそうだと思ってもスルーしてしまう、高級そうな店構えの和食屋さん。
店先のメニューをみると、おまかせコースが5000円から。一品料理も、1000円以上はする。
ひえー、美味しそうだけど、お高い。

だけど、メニューの終わりの方に目をやると、すき焼きご飯が1200円、うなぎご飯も1000円。
これなら、ちょっと奮発すれば、わたしも食べられるのでは?よっしゃ、いったれー!
3×歳、晩秋の大冒険だ!

わたしは、高級そうなお料理屋さんの門を開く。店内の雰囲気も活気はあるけど、チェーンの居酒屋みたいな感じではなくて、リッチな大人が食事を楽しみにやってくるって感じ。

隅の方では、親子ほど歳が離れているがおそらく親子では無さそうな雰囲気の男女がご歓談中だし、奥の方の皆様も、身なりが整っていらっしゃる。

ユニクロのセーターと、Zeppのドリンクホルダー付きのバッグで来たわたしの、場違い感がすごい。若干気後れしたが、入ってしまったからには食べるしかない。

カウンターに通され、すき焼きご飯を注文する。

待っている間も、バキバキに割れたiPhone8を出すと、店の景観を損ねる気がしてしまい、完全に手持ち無沙汰。今日に限って、本もホテルに置いてきたので、板前さんたちがお魚を捌くのを無意味にながめる。どうしよう、どうしたらいい、食事早よ来い!

わたしの願いが通じたのか、お通しの粕汁とウーロン茶がやってきた。粕汁、美味しい。ネギも大根もにんじんも、味が染みている。ゆっくり食べようと思ったけど、ペロリと食べてしまう。

そして、二度目のお魚捌き凝視タイムを挟み、すき焼きご飯がやってきた。ふわー、うまそう!でもおもてたのと違う。
わたし、吉野家の牛すき鍋膳みたいなのをイメージしてたんですよ。

だけど、目の前に来たのは、高級な肉乗せご飯って感じ。普通のご飯茶碗くらいの大きさの器に、大きいお肉が一枚と、卵黄。それからおネギと海苔。さっそく食べるけど、お肉が柔らかい、タレが美味しい。こんな美味しいもの、地方じゃめったに食べられないよ。

だけど、ちょーっとだけ嫌な予感がする。これ、サイズ的に、単品で頼むものじゃなくない?
チェーン店でいうとこの、お茶漬けとか、おにぎり的な立ち位置のやつじゃないの?

メインを何品か頼んで、ご飯も欲しいかもー、でご注文するやつでは。多分じゃなくて、かなりの確率でそうなんじゃないの。
どうしよう、なんか頼むか?見栄を張るなら、最後まで張り通せ。

だけど、別にそこまで空腹じゃないし、普通に予算オーバーだし、と、中途半端にドケチ心が顔を出す。こっちは、浮かれ気分でうっかり入店してしまった田舎の姉ちゃんなのだ。手取り15万のしがない地方の事務員に、一食5000円出せるかよ。

さっきまで、肉美味しい、ハッピーと思っていたのに、いらん事に気がついてしまって、途端に気まずい。客単価低くてごめん。美味い。美味くて幸せだけど、多分、早めに平らげて、次のお客さまに席を空けた方がいい。

なる早で食事をすませ、来た時と同じく、入り口前で縮こまりながらお会計をすませる。
ありがとう、美味しかった、だけど、身の丈に合わないことするもんじゃねえよなあ。

わたしは、2,000円払って、うまい肉と話のネタを買ったってわけだ。高いのか安いのかはわからない。

そういえば、こういう時にぴったりのことわざがあった気がする。旅の恥は書き捨て、ってね。
お後がよろしいようで。



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