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【読書感想】#3「名探偵のままでいて」(小西マサテル)
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はじめに
この作品は「このミステリーがすごい!」大賞を受賞しています。
この本もいろいろな書店で紹介されていたので気になっていました。
自分ルールで「3回気になったら手をだす」っていうのがあるので、そのルールに従って手に取りました。
表示から感動系の作品のなのが伝わってきますが、謎解きもしっかりあり、ちょっと恋もあり、様々な方向から楽しめる作品でした。
あらすじ
かつて小学校の校長だった切れ者の祖父は、七十一歳となった現在、幻視や記憶障害といった症状の現れるレビー小体型認知症を患い、介護を受けながら暮らしていた。しかし、孫娘の楓が身の回りで生じた謎について話して聞かせると、祖父の知性は生き生きと働きを取り戻すのだった! そんな中、やがて楓の人生に関わる重大な事件が……。
感想
日常のミステリを名探偵のおじいちゃんが解決してくれる。そんなほのぼのした話なのかと思っていました。
ストーカーが登場したあたりから誰が犯人なのか登場人物みんなが怪しく見えてきたりもするのですが、終盤、涙が止まらなくなるほどで、悲しくて悔しくて、そして優しくて…そんな素敵な物語でした。
ストーカーみたいな悪いやつも出てくるのですが、心の温かい人物が多く、優しい気持ちにもなれるので、ミステリはそんなに好きじゃないという人でも読みやすいと思います。
最後に名探偵が紡いだ物語がどんなものだったのか、読んだ人と話したいです。
※「名探偵じゃなくても」というタイトルで第二部が発行されてるみたいですね!そこで真相が明らかになっているかもですね
好きな文章・表現
自分のそうした認識や振る舞いに、割り切れるはずの割り算でなぜか剰余が出てきてしまうような奇妙な違和感を覚えていた
割り切れるはずの割り算で剰余が出るような違和感
例え方がジョジョっぽくて好きです。
それだけ笑
吸う息が冷たい悲しみとなり,吐く息が白い悲しみとなった
楓が4歳の頃、祖父と雲を使った三題噺をしたことがありました。
楓は27歳、祖父は認知症。何もかも昔と違う、雲ひとつ無い空を見上げ「あの雲を使ってお話を作ってみなさい」祖父のセリフだけが昔のまま。
話を紡ぐ中で、取り戻せない過去を思う楓の悲しみが伝わってくる文章です。
堰を切ったように、言葉と想いが溢れた
楓には両親がおらず、おじいちゃんが死んでしまったら天涯孤独になってしまう身でした。
だからこそ、おじいちゃんの前では泣かないよう努め、自分の感情を抑えて過ごしていたのだと思います。
劇団員をしている四季から誕生日プレゼントをもらった際に抑えていた気持ちが溢れ、過去の出来事を語り出します。
語られる回想は何度読んでも涙が止まりません。悔しいのか悲しいのか私もわかりません。
一昨日と昨日と今日だけじゃありません。僕は初めて逢ったときから、ずっと、あなたのことが好きです。
四季の楓に対する告白のセリフ。
楓は小学校の卒業式に祖父からもらった本「たんぽぽ娘」を大切にしていて、その中での有名なセリフ「おとといは兎を見たわ、きのうは鹿、今日はあなた」を暗記しているほどでした。
四季が唯一、翻訳もので好きな本として「たんぽぽ娘」をプレゼントしてくれ、だからこそ楓にも響いたんじゃ無いかなと思いました。
四季と楓のこの名台詞での掛け合いシーンとても好きです。
こんな告白に憧れます。
本棚を見れば人が分かる
今の時代は、本も映画も教材も電子化して”本棚”が無い人もいるんじゃ無いかなと思ったりしますが、確かに今まで勉強したこととか、好きな小説や映画のジャンルなんかが凝縮されているのが本棚な気がします。
私は本は紙派です。(自己啓発とかは電子ですが)
これはコレクションしたいって気持ちもありますが、ふと本棚を見た時に記憶が甦るのが好きだからです。
紙の本を買いなよ。電子書籍は味気ない。本はね、ただ文字を読むんじゃない…
なんて言ってた人もいましたね
あなたの笑顔を見てみたい
あなたの泣き顔も見てみたい
あなたが怒る顔も見てみたい
吐息を感じるほどの近さで
この小説の中でたびたび現れる太文字の短い文書の一部。
主人公の楓はストーカーの被害に遭っており、その不穏な空気と共にこの種の文章が挿入されています。
なのでとても気持ち悪く感じるのですが、私は愛のあるとても素敵な文章だと思います。
ですよね?