
「悼む人」 天童荒太
「でしたら、彼女のことをお聞かせ願えませんか、
彼女は、誰に愛されていたでしょうか。誰を愛していたでしょう。どんなことをして、人に感謝されたことがあったでしょうか。」
主人公の坂築静人は、故人を悼む旅をする者です。
このお話は、「悼む」ことを通して、「死」に思いを寄せ、そして「死」と共にある「生きる」ことに思いを馳せる物語なのだと思いました。
悼む人
坂築静人は悼む人です。事件や事故で亡くなった人を悼むため、全国を旅し続ける人でした。
新聞記事を読み、死に至る出来事を知り、その場所を訪れては、故人について関わる人々へ冒頭の言葉をかけるのです。そして、その人が生きた証として、静人自身の胸に刻んでいきます。
静人が旅を続けるなかで、たくさんの人生と出会います。それによって静人自身の「生きること」を再生し続けていくのです。
そんな静人の行為を通して、読者であるわたし自身も、生と死について、深く考える旅を共に歩んでいるようでした。
静人がなぜ悼む旅に出たのか、そのわけは母親である巡子の章で語られています。
登場人物
主だった登場人物は、3名なのです。
蒔野抗太郎 目撃者、偽善者、捜索者
坂築巡子 保護者、代弁者、介護者
奈義倖世 随伴者、傍観者、理解者
各々の章ごとに、その3名が静人に関わる物語を展開します。
上に掲載したような者として、次第次第に役割を変えながら、静人の人生とあり方を明らかにすることで、自分自身を癒していきます。
「悼む人」の主人公は静人なのですが、それぞれの章ではこの3人が主人公なのです。
静人日記
「悼む人」を読み進めるほど、静人という人についてもっと知りたいという思いが強まっていきました。そこで、そうとは知らずに手に取ったお話「静人日記」が、主人公の日記であることに気づき、「悼む人」と並行して、読んでいくことにしました。
こちらを読み終わるのには、まだ時間がかかりそうです。なんといっても、200日余りの静人の思いが書かれてありますからね。
死と生
人生半世紀を超え、親の世代がこの世を去るようになると、死というものをとても身近に感じ、誰もが通る道としてその訪れを受け入れる、心の構えがつくられていきます。
人生の折り返しを過ぎ、その先をどのように生きていくのか、そして、何を残して逝くのか。
それはまた冒頭に書いた静人の問いのなかにあるのだと思いました。
誰かを愛し愛されて、人との関わりのなかで穏やかな温かさを残したい。
それは、ひとつの言葉でもいい。一度の笑顔でもいい。大きな響きじゃなくても、ささやかな幸せを。
そう思うのではないかと思います。
「悼む人」そして「静人日記」は、読み進めるほど心に温かな思いが積もっていきます。
誰かの物や思いを取り合うことで、諍いや紛争や戦争の起こる世の中にあって、豊かに生きることを沁みるように伝えてくれる、そんなお話。
物語の最後は、伏せておきましょう。
ただ、心が震えて仕方がない。とだけ書いておきますね。
良いお話はやはり映画になるのですね♪
観たかったです🎬 予告だけでそう思えます。