ここに書かれていることは2000年以上前の話|『完全版 ローマ人への質問』塩野七生
私がローマの歴史についての本を読むなんて。人は変わるものです。
振り返れば高校の社会科の選択授業では「覚えることが少なそう」という理由で「地理」「政治経済・倫理」の二つを選択をしていました。「日本史」「世界史」なんて絶対覚えられない、とテスト嫌いな私は怯えていたのです。特に世界史って、偏見ですがヨーロッパの歴史を呪文のように覚えるイメージがあったのです。○○家とか○○何世とか○○戦争を延々と覚えるイメージ。なので古代ローマもギリシアも中世もよく分かっていませんでした。
ただ、テレビや映画となると意外にも歴史系のものは好きで、昭和生まれなので『知ってるつもり?』を見てみたり、BSでは「これ、なんか前にも見たことあるなー」という感じの、いつの間にか始まっていつの間にか終わっているヨーロッパ歴史紀行?人類誕生の歴史?南米歴史ミステリー?シルクロード特集?みたいな番組をついつい何回も見てしまうような趣味もありました。(綺麗な映像と途中でクイズなどが入らないスタイルも好きだったのかも)
テストが嫌いなだけで、実は昔の風俗や現代に繋がる歴史を面白いと思って見ていた部分もあるのです。しかし内容は全く頭に入っておらず、見ている間に「ほほー」っと感心して有難く拝見するという感じでした。当然そこから歴史を調べようとか読書に繋がっていくことはなく、気付けばそのまま「偉人達の名前だけぼんやり知っている中年」になりました。(お仲間はいらっしゃいますか?)
そんな私ですが、最近友人のすすめで歴史のpodocast『コテンラジオ』を聞いています。耳から聞けるコンテンツはとても便利で、家事をしながら聞くのが定番となりました。
今までヨーロッパの歴史なんてほぼ知識ゼロだったのですが、『ユリウス・カエサル』『ハンニバル』の回が本当に面白くて、この度ついにローマの本に手を伸ばすこととなりました。さすがに有名な作家の方なのでお名前だけは存じ上げていた塩野七生さんの著書『完全版 ローマ人への質問』を選びました。
こちらの本を選んだ二つの理由は
①「現代の日本人から古代ローマ人への20の質問と対話」という形式にものすごく惹かれたから。歴史に弱い私でも最後まで読めました。とてもうれしい。
②薄い本に見事にまとめられている。最初から分厚い本は絶対だめ。
そしてこちらは2000年に出版されているものを、塩野さんが自らの意思で2023年に改定版として書き直しているものなのです。
以下は目次の前に書かれている「読者に」の2023年版からの引用です
冒頭から素敵です。目次には「質問1」~「質問20」と書かれており、シンプルに目次がそのまま20の質問になっている構成もとても美しいと思いました。本文を読む前の「読者に」と「目次」でまず二回楽しめます。
そして各項目は5~10ページほどで簡潔にまとめられており、大変読みやすい文章と古代ローマ人との会話形式の面白さがあります。
以下はこの本を読んで自分がワクワクした部分の感想となります。ちょっとくだけた表現になってしまいすみません。
ちなみに古代ローマで帝政が徐々に倒れていき共和政が始まったのは紀元前5世紀頃。もちろんキリスト教もイスラム教も仏教もまだ誕生しておらず、日本では縄文の終わりから弥生時代くらい?なんですって。2000年以上前の暮らしでこんなことが。まずはそのことに大いに震えようではありませんか。
他文化を模倣・吸収・独自に発展させるのが恐ろしく上手いローマ人(日本人ぽい)
多神教、神様いっぱい。街の中にお祈りする場所を建てるのも日本の神社っぽい。
ローマ人はお魚が大好き(日本人ぽい)
ギリシア文化の影響で裸に対して抵抗がないので公共浴場が平気。(キリスト教の影響下で裸文化は無くなっていきます)
とにかく風呂。公共浴場が安い。戦場でもお風呂をつくる。
インフラがとにかくすごい。どんどん水道を引いて、道路をつくるのをやめない。
人口がすごいのでローマ貧しい庶民は4階建てぐらいの狭いアパートに住んでいる。ホームレスももちろんいる。
支配した街をとにかくローマっぽく整備する(ミニ・ローマを無限に建設する)
意外とちゃんと働いていたし余暇も休日もしっかり取る(夜明け前に起きて午後二時くらいから余暇、浴場に入って家でご飯、日が暮れたら寝る)
最強海軍カルタゴをやっつけた「カラス」の図が載っていた(これかッ)
とにかくなによりも法律が大事!柔軟であり遵守。法律そのものに提案した人の名前を付けることも。(例)「ユリウス農地法」(日本も真似すればいい。)
奴隷の定義が現代の認識と全然違う。ありとあらゆる仕事の奴隷がいる。(家庭教師もいるし自由奴隷になれるものもいるし公共浴場にも入れる)
女性の資産権に関する法が既にある。あと、ローマの女性はとっても強い。
以下は古代ローマ人が質問に答えてくれている部分の引用です。
確かに、法律が整っていて公共浴場があるなんて幸福度がだいぶ高い。
日本人とたくさんの似ている部分が見られるローマ人ですが、こと「法」に関して言えば、日本は「法」よりも「慣習」を重んじる文化が脈々と続いているように見えるので、その点は大きく違うところだと痛感してしまいます。「冤罪」を生み出す仕組みになってしまう様々な法律は恐ろしく長い年月にわたって問題になっており、つい最近も袴田巌さんとお姉さまの秀子さんの58年に及ぶ戦いにようやく光が見えてきたところです。「少年法」「性犯罪に関する法律」など様々な問題を抱えている国ではあるので、「法」に関してだけは他の文化から吸収、習得、発展させることが異常に苦手な国民なのだなと日々感じますが、むしろこれは見事自己流に改編、発展させたからこそ「法」の根幹そのものが失われてしまった結果なのか、と皮肉な現象と捉えることもできます。
大陸内部に位置せず、周囲をぐるりと海で囲まれている国が陥ってしまうどうしようもない地理的な風習なのだろうかとも思います。
そして色々と話は変わりますが、古代ローマの歴史を少しだけ齧ってからヤマザキマリさんの「テルマエ・ロマエ」を再読したり、マリさん、とり・みきさんによる合作の「プリニウス」を初めて読んでみると、面白さが段違いでした。歴史を勉強している人は人生を何倍も楽しんでいるのだなあと羨ましく思い、自分も少しずつできる範囲で歴史を楽しんでいきたいと思ったのでした。
それでは、長くなりましたので終わります。
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昔の私なら古代ローマ人の話を読んで何になる?と思っていました。私が日本の戦国時代に詳しくなって何になる?と。
結局もう終わったことだし偉人達の偉業の話はいくら聞いても飽きないほどに面白いものではあるが、「すごいなあ」以外の感想が特にない。だって現代とあまりにも違いすぎる世界だし。それならもっと現実から離れた設定の「小説」を読むほうが面白いしなあ、などという感覚だったのかもしれません。
しかし、歴史を知るにつれて昔の人々の暮らしぶりに驚くことの多い事、そして同じ様なことで喜び、悩み、苦しんできたことも良く分かります。今の方が進歩している、という考えが覆され、「進化」や「退化」という考え方が徐々になくなってくるのです。正解も不正解もなく、その日その日を生きる人々の営みは繰り返されていき、もしその中で正しいことがあるとするならば、歴史の中で行われた事象を細やかに丁寧に追いかけて、自分が生きている時代と照らし合わせて楽しみながら一生懸命に考え、話し合うことだけだと思います。