人工甘味料は肥満やメタボリック症候群の対策にならない──腸内細菌叢に悪影響、かえって悪化する可能性も
糖尿病患者や体重を気にする人など、甘味はほしいが糖分は控えたいという人が頼るのが、アスパルテームやスクラロース、アセスルファムカリウム(K)やサッカリンなどの人工甘味料だ。甘味はあっても消化吸収されにくいため摂取カロリーの節減や血糖値上昇の抑制になるとして、「ダイエット」「カロリーゼロ」「シュガーレス」などをうたい文句にした人工甘味料や、人工甘味料を使った清涼飲料が市販されている。サッカリンナトリウムは、練り歯磨きに甘味をつけるためにも使われる。
世界保健機関(WHO)は、2023年5月に非糖類甘味料(人工甘味料)を体重コントロールや非感染性疾患(いわゆる生活習慣病)のリスク軽減のために使用しないよう、勧告を出した(1)。それによると、人工甘味料には成人・未成年いずれにおいても体脂肪を減少させる効果がなく、長期にわたって摂取しつづけるとむしろ2型糖尿病や心臓血管障害、さらには死亡リスクを高めることが、近年の研究を系統的に分析してわかったというのだ。砂糖を人工甘味料に置き換えただけでは、ダイエットになるどころか体重(BMI)が増加したという研究もある(2)。フランスの9.1年にわたる集団疫学研究(NutriNet-Santéコホート研究)からは、人工甘味料の摂取量が多いほど2型糖尿病発症のリスクが高まるという結果が導かれた(3)。
人工甘味料の多くは砂糖(ショ糖)の数百倍~数万倍という強烈な甘味をもち、わずかな量でも甘さを感じる。その構造は人工甘味料によって大きく異なり、アスパルテームはアミノ酸のアスパラギン酸とフェニルアラニンが結合したもの=ジペプチドであるのに対し、スクラロースは構造はショ糖とよく似ているが、塩素原子を含む有機塩素化合物である(ショ糖の-OH3か所を-Clで置き換えたもの。図参照)。なお、ステビアは南米原産の植物から抽出されたステビオシドなど10種類の甘味成分の総称で天然化合物だ。いずれもほとんど消化管内で消化吸収されずに、排出されるとされている。しかし上記のような報告もあるので、なんらかの経路を通じて人体に作用を及ぼすのではないかと考えられている。どうもそこに腸内細菌が関与しているようだ。
表 おもな人工甘味料(非糖類甘味料)
イスラエルの研究グループが、健康な人120人を、サッカリン・スクラロース・アスパルテーム・ステビアをそれぞれ摂取する4グループと、ショ糖を接種するグループ、何も摂取しないグループ(最後の2グループが対照)の全6グループに分けて調べた研究結果によれば、2週間の試験期間後に人工甘味料摂取4グループの口腔内と腸内の細菌叢、血漿内代謝物が変化していた(対照グループでは変化なし)が、サッカリンとスクラロースをグループでは血中ブドウ糖(血糖)の細胞への取り込みが弱くなる耐糖能異常が見られたという(4)。対照グループ、ショ糖摂取グループやほかの人工甘味料摂取グループでは、とくに異常は見られなかった。
耐糖能異常は、血糖値が下がりにくかったり、食後に血糖値が急上昇したりして、2型糖尿病の前段階とされている。メタボリック症候群の症状の1つであり、肥満した人に生じやすい。しかし、痩せた人でも耐糖能異常が見られるケースは少なくない(たとえば、Motonori Sato et al., 2021(5))。そうしたなかには、人工甘味料の摂取を原因とするケースがあるかもしれない。
研究グループは次に、参加者の試験前と試験後(21日目)の便から細菌叢を無菌マウス(体表にも体内にも共生細菌をもたないように管理下で出産・生育させた実験用マウス)の腸内に移植すると、それぞれのマウスの血糖反応は、便提供者の血糖反応を反映したものになった。つまり、人工甘味料摂取によって変化した腸内細菌叢が、血糖反応に影響を与えている(耐糖能異常をもたらしている)ことが示唆される。ただし因果関係があると示したものではない。
アメリカ・カリフォルニアのシダーズ=サイナイ医療センターの研究グループが、実験グループを砂糖・アスパルテーム以外の人工甘味料摂取グループ(NANS、35人)、アスパルテームだけを摂取するグループ(ASP、9人)、いずれも摂取しない対照(55人)の3群に分けて、十二指腸と便の細菌叢を調べたところ、NANSでは対照に比べて十二指腸細菌叢の多様度が低下していた、と報告している(6)。また、対照と比べてNANSとASPでは、十二指腸で大腸菌属、クレイブシエラ属、サルモネラ属(いずれもプロテオバクテリア門)の細菌の相対的存在度が低くなっていた。一方、便細菌叢では逆にこれらの細菌の相対的存在度が上昇していた。人工甘味料を摂取すると、腸内細菌叢の構成や機能を変化させ、小腸における代謝活動に影響を与えるのではないかと、研究グループは見ている。
メキシコの研究グループは、健康な成人男女を毎日1回48mgのスクラロースを摂るグループと水だけを摂る対照群に分け、10週間後に便の細菌叢を調べて、試験開始前のものと比較した。するとスクラロース摂取グループでは、ブラウティア・コッコイデスが対照群の3倍にふえていた一方、乳酸菌の一種ラクトバチルス・アチドフィルスは3分の2に減っていた。いずれもヒトの腸内に多い常在菌であり、有用菌(善玉菌)と考えられている。また、門レベルでは、放線菌(アクチノバクテリ)門、バクテロイデス門では両グループで変化がなかったものの、スクラロース摂取グループではフィルミクテス門が4割減少していたという(7)。また経口ブドウ糖負荷試験をおこなったところ、スクラロース摂取グループでは血中インスリン量と血糖値のいずれもが増加していた。研究グループは長期的なスクラロースの摂取は、腸内細菌叢とともに、ブドウ糖代謝にも変化をもたらすとしている。
これらの報告をみると、人工甘味料は人体に直接は吸収されないかもしれないが、腸内共生細菌に影響を与え、健全な腸内細菌叢のバランスが失われてしまう(いわゆるディスバイオシスをもたらす)可能性がある。その結果、かえって肥満や耐糖能異常、さらには2型糖尿病をもたらすかもしれない。2型糖尿病患者や耐糖能異常をもつ人、あるいは肥満している人のなかには、砂糖の代わりに人工甘味料を摂っている人も少なくないだろう。それは効果がないどころか、悪化を招く可能性もあるのだ。
一方で人工甘味料を製造するメーカーは、こうした研究結果に対して神経をとがらせている。アメリカ糖尿病学会は2型糖尿病患者に砂糖の接種を控え人工甘味料で代替することを推奨しているが、人工甘味料を製造する大手製薬会社から多額の寄付がおこなわれてきたことが指摘されている(たとえば、NBC NEWSの報道)。これはタバコメーカーが、タバコの健康影響にたいする研究に助成したり、関連学会に寄付したりしてきた構図とよく似ている。
人工甘味料摂取が、腸内細菌を通じて血糖値の調節に影響を与えているのだとしても、どのような細菌や細菌群がかかわっているのか、どのようなメカニズムによってそのような反応が生じるのか、詳しいことはまだわかっていないが、研究者たちはその解明に向けて取り組んでおり、いずれ明らかになるだろう。
1) World Health Organization:WHO advises not to use non-sugar sweeteners for weight control in newly released guideline, 15 May, 2023
2) Meghan B. Azad et al.:Nonnutritive sweeteners and cardiometabolic health: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials and prospective cohort studies, Canadian Medical Association Journal, 189(28), 2017
3) Charlotte Debras et al.:Artificial Sweeteners and Risk of Type 2 Diabetes in the Prospective NutriNet-Sante Cohort, Diabetes Care, 46(9), 2023
4) Jotham Suez et al.:Personalized microbiome-driven effects of non-nutritive sweeteners on human glucose tolerance, Cell, 185(18), 2022
5) Motonori Sato et al.:Prevalence and Features of Impaired Glucose Tolerance in Young Underweight Japanese Women, The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, 106(5), 2021
6) Ava Hosseini et al.:Consuming artificial sweeteners may alter the structure and function of duodenal microbial communities, iScience, 26(12), 2023
7) Lucía A. Méndez-García et al.:Ten-Week Sucralose Consumption Induces Gut Dysbiosis and Altered Glucose and Insulin Levels in Healthy Young Adults, Microorganisms, 14(2), 2022
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