オペの記録、H鋼の表札
もともとあるモノに手を加える、というのは鉄の得意技。切る、磨く、曲げる、溶接する…いったん仕上がったものでも、様々な後加工を施すことができます。
もともと。
塀にH鋼が埋まっていて、それが表札になっている珍しい個人邸。この錆びた表情も鉄らしくてカッコイイんですが、多分このままだと雨が降るたびにサビが周辺のコンクリートに流れ出していきそう。そこで改装のタイミングに合わせて、表札も錆を落として化粧直しすることになりました。
さて、どうしたものか。
錆を落とすと文字や数字も消えるので、新たに作ってくっつけることになります。
溶接なら、何をどこにくっつけるか?は自由自在。
真ん中にしようか、端っこにしようか。もしかすると上もありかもしれない。
…いや、やっぱり上はなしだな。装飾的になっちゃいそう。
鉄骨が飛び出してる無骨さがカッコいいので、その佇まいを残したい。
いろんなパターンの絵を描きながら、検証を重ねて、結論。
鉄骨の大胆さには、こちらも大胆なアクションで応えよう。
いったん切りました。
あらかじめ、数字を切り抜いた四角い鉄板を作っておく。
↓
H鋼の右端を四角く切り欠く。
↓
鉄板をはめ込んで、溶接で合体。
↓
溶接した跡を削って、完全に一体化させる。
苗字の切り文字を溶接して、出来上がり。
全体の錆を落とした後、特殊塗装で鉄の質感に仕上げています。
***
表札は看板ではない、というのをデザイン段階で強く意識してました。家は出かける先ではなく帰る場所なので、存在感をアピールして目立たせることよりも、落ち着き感や静けさを大事にしたい。でも作家モノとして作る以上、既製品では出せない要素は欲しいところ。そのへんのいい塩梅を見つけるのはちょっとデリケートです。が、今回は鉄屋なら間違いなく萌える「H鋼むき出し物件」だったので、例えるなら最高の食材に出会った料理人のような。お家全体もいろんな素材感を上手に調和させた素敵な建物で、良い刺激のなかで取り組めました。センス抜群のお施主様に感謝です。
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