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「性格いいキャラ」は減点方式、「性格悪いキャラ」は加点方式で評価される

私は性格の悪い悪役キャラクターが好きで、
悪いキャラクターをより悪く見せるのが得意(?)というか楽しいのですが、
かといって性格のいいキャラが描きづらいということはなくて、善性の塊のようなキャラも、描き方が「わかる」感覚があります(実際描けているかどうかは読者の方の判定にお任せするしかありませんが)。

というのも、
「性格のいいキャラ」を描くには、「性格が悪くみえるのはどういうときか」をよく把握している必要があると思うのです。


『天才魔術師』を例にして話しますが、
主要キャラをざっくり善悪で分けるとこうなりますよね。

「小説家になろう」のようなジャンルの作品は、登場人物の善悪をわかりやすく分けるのが特徴のように思います


この中で主人公のイリスは特に最も性格のいいキャラとして描かないといけません。

『義妹に婚約者を奪われた落ちこぼれ令嬢は、天才魔術師に溺愛される』第1巻より


それが故にイリスは最も動かし方に神経を使わなければならないキャラクターです。


性格のいいキャラは”倫理を一切外れてはならない”


性格のいいキャラはほんの少しでも言動に引っ掛かる部分があると、あっという間に読者に失望されるおそれがあります。

それは「暴力」や「万引き」のような悪ではなく、
もっともっと繊細なことです。
例えば「困っている人のSOSに気づかない」とかそんなレベルです。
消極的な悪ですら許されないのです。


捨て犬を素通りする


現実世界において困っている人のSOSに気づかなかったからといって責められたり印象が下がったりすることは稀ですが、フィクションでは見ている側が神の目線から判断するので、まぁ許されません。

なので善人キャラはかなり見え方に気を配る必要があります。

悪役の”加点方式“


それに比べて悪役を描くのは本当に簡単です。
性格の悪いキャラは多少良いことをしても(キャラブレするような描写は避けるべきではありますが、善人を描くときよりは雑で良いです)、悪い面が圧倒的に上回っていれば嫌われることができるので、どんどんヤバくすればいいのです。

ヤバ代表・ケンドールくん
『義妹に婚約者を奪われた落ちこぼれ令嬢は、天才魔術師に溺愛される』第1巻より


しかし、善人キャラは善行を重ねれば重ねるほど良く見えるというわけでもありません。

「いい子ちゃん」と取られてかえって鼻についてしまう場合があるからです。

「いい子ちゃん」と見られることを避けるためには、むしろ逆にほんの少し悪い部分(加害性)を足したほうが良い場合すらあるでしょう。

少し言い返したり…
『義妹に婚約者を奪われた落ちこぼれ令嬢は、天才魔術師に溺愛される』第1巻より
やり返したり…
『義妹に婚約者を奪われた落ちこぼれ令嬢は、天才魔術師に溺愛される』第2巻より


しかし、やはり前述の通りそれが読者から「悪い」と判断されてしまえばそれも失敗に終わります。その塩梅はとても慎重に図らねばなりません。


もうすこし詳しく

「天才魔術師」の各キャラから、「善いキャラ」の描写についてもう少し細かく述します。

※コミカライズ担当としてというよりは原作のいち読者目線での記述です
オザイによる勝手な解釈が多く含まれます

イリスとレノ

『義妹に婚約者を奪われた落ちこぼれ令嬢は、天才魔術師に溺愛される』第1巻より

この2人は非常に似た境遇にいるキャラクターです。
魔力を持たず、義理の家族や婚約者からつまはじきにされたイリス。
常人離れした見た目やその言動から迫害されてきたレノ。
この2人はわかりやすく「善性」を体現したキャラで、それは「被害者」であることによって担保されている部分が大きいように思います。

イリスは継母・妹・ケンドールから、レノは兄以外のほとんど全ての人間から攻撃を受けて過ごし、時には自分を責めることすらしますね。
「徹底的に被害者である」ということで彼女らは絶対的な善性を獲得しています。そういう立ち位置になる原因として、女性である・子供である(=身体的弱者である)というのも大きいでしょう。

イリスを救うのはマーベリックやレノと共に過ごす時間ですが、マーベリックはその圧倒的強者としての力でもって暗闇からイリスを引っ張り上げるようなアプローチなのに対し、レノとはお互いの傷に共感するような優しく消極的なアプローチです。

しかしそれゆえに、「いい子ちゃん」扱いされヘイトを買う危険が大きいキャラクターといえるでしょう。


マーベリック

『義妹に婚約者を奪われた落ちこぼれ令嬢は、天才魔術師に溺愛される』第1巻より

そういった意味で、マーベリックは完全に善性を体現したキャラクターとはいえませんし、漫画として出力する際に私は彼を善人としては描いていません。

マーベリックはレノとイリスを深く・真摯に愛しますがそこにあるのは共感ではなく、身内と認めた者への絶対的信頼だと思われます。
マーベリックは2人の苦しみを本質的に理解することはできないでしょう。マーベリックはイリスに欠落した(と思われている)「才能」・レノに欠落した(同)「美しい容姿」の両方を生まれつき持っており、悪意の対象になったことがないからです。

マーベリックは身内以外の人間には一切興味がなく、時には攻撃的な面すら見せます。それを象徴するような要素が、「出世に興味がないこと」だと思います。

『義妹に婚約者を奪われた落ちこぼれ令嬢は、天才魔術師に溺愛される』第3巻より

物語の舞台であるティナリア王国において、魔力は重要な軍事力です。
国内随一の軍事力を持っていながらそれを必要最低限にしか使わないのは、国益を損う行為と見られても不思議ではありません。それを無視できるのはマーベリックが内的にも外的にも「そうできるだけの強さ」を持つからでしょう。
イリス・レノが徹底的被害者であるゆえにため込んだ感情を、強者のポジションで以て「代わりにやり返す」ことで解放するのがマーベリックの役目なわけです。

その攻撃性が悪とみなされる場合もあるでしょうが、前述したとおり彼はそもそも徹底的な善人ではないので、その中に悪を見出されてもたいして影響ありません。なので漫画にする際にも、イリスやレノと比べるとはるかに動かしやすく感じます。
(マーベリックを動かすときに気を付けるべくは善性のバランスではなく、「ヒーローとしてダサくみえてはならない」ということにつきます。)

ヴィンセント

『義妹に婚約者を奪われた落ちこぼれ令嬢は、天才魔術師に溺愛される』第1巻より

彼は非常に面白いキャラクターです。登場キャラクターをイリスにとっての味方/敵で二分した場合、間違いなくヴィンスは味方です。彼はマーベリックと同じように家族を愛しています。

しかし、レノが幻視する竜の存在に懐疑的な様子を見せ(これはコミカライズ版では描写しませんでした)、恋愛的な好意の対象であるイリスにすら謎を暴くような視線を向けます。
マーベリックが盲目的なまでに家族を全肯定するのに対し、彼は家族に対しても懐疑的な態度を崩しません。

マーベリックは力があるために自らの持つ軍事力の非行使を選べると述べましたが、だからといってヴィンセントがワーカーホリック(国に従事し、自らの軍事力を積極的に行使している)なのはノブレス・オブ・リージュを体現するようなものではおそらくありません。これもコミカライズ版では描写しませんでしたが、彼はマーベリックとの会話の中で「自分は人並みに出世欲がある」と発言しています。彼は誠実ですが、基本的には個人的欲求に則って生きており、そしてそれが可能であるというのは、やはり(マーベリックと同じで)【身体的・社会的強者】ゆえの性質なのでしょう。

道徳観に関する注釈

上記すべての内容はいわゆる『奴隷道徳』的価値観に基づいているので、君主道徳的価値観に基づく作品であればむしろ善人のキャラが加点方式で描かれ、悪人のキャラは減点方式とはいわないまでも消極的な描写になるでしょう。(あまりに奴隷道徳が根付いているので、注釈する必要もないでしょうが…)

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