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【治承~文治の内乱 vol.4】 源頼政らの参戦

園城寺おんじょうじ衆徒しゅとらの反発

三条高倉の御所を脱出した以仁王もちひと-おうの所在が園城寺おんじょうじ三井寺みいでら)であると公に判明したのは、検非違使けびいしらが以仁王の御所を捜索した翌日の治承4年(1180年)5月16日のことでした。

これは以仁王の異母弟で、園城寺の長吏ちょうり(※1)であった円恵法親王えんえほっしんのうが平時忠ときただ(清盛の義弟)・平宗盛むねもり(清盛の三男)らに使者をもって知らせてきたことによるものでした。

時忠・宗盛らは早速以仁王の身柄引き取りのため、使者と円恵法親王の下につく僧3名、それに宗盛の手勢50名を園城寺へ派遣しました。
ところが、園城寺の衆徒らは以仁王の引き渡しを拒否。反発を強める衆徒らによって円恵法親王の僧坊(住まい)が破壊されるという事態まで起こります。

そこで事態打開のため、今度は園城寺の僧綱そうごうらから衆徒らを説得させようと試みました。

この僧綱というのは、園城寺や延暦寺、興福寺などの大きな寺にいる寺の管理・運営、寺所属の僧や尼を統括、管理する役職に就いていた人たちの総称です。僧綱の官職(僧官)としては階級の高い順に、僧正そうじょう(僧位は法印大和尚位ほういんだいかしょうい〔略して法印ほういん〕)・僧都そうず(僧位は法眼和尚位ほうげんかしょうい法眼ほうげん〕)・律師りっし(僧位は法橋上人位ほっきょうしょうにんい法橋ほっきょう〕)がありました。

さて、僧綱らの説得は一定の効果があったのか、一旦は衆徒らが説得に応じて王の身柄引き渡しを認めることで事態の収拾がつくかと思われました。
しかし、以仁王自身が徹底抗戦の覚悟を示して強硬派の衆徒たちの支持を得たことで結局は身柄引き渡しに応じないこととなり、僧綱らによる説得も失敗。衆徒らの反発は激しく、身の危険を感じた僧綱らは如意にょいヶ岳(如意山、如意ヶ嶽とも)に逃げるほどだったといいます(※2)。
このように事態は一向に解決の兆しを見せませんでした。

源頼政らの挙兵

治承4年(1180年)5月21日。
園城寺衆徒らが一向に以仁王の身柄引き渡しに応じず膠着した状況の中、平家はついに武力行使で事態の解決を図ることとし、明後日23日に園城寺攻撃を行うこととなりました。園城寺攻撃軍は平宗盛を総大将とし、平頼盛よりもり・平教盛のりもり・平経盛つねもり・平知盛とももり・平重衡しげひら・平維盛これもり・平資盛すけもり・平清経きよつね源頼政みなもとのよりまさの9名を大将とする編成です。この中に頼政が含まれていますが、これはこの時点において平家が頼政の謀叛加担を把握していないことを表しています。

そしてその夜。源頼政は近衛河原このえがわらにある自邸に火をかけ、一族郎党や麾下きかの渡辺党を率いて園城寺の以仁王と合流しました。
ついに頼政が反平家の立場を明らかにしたのです。
この知らせを受けた九条兼実は日記『玉葉』のなかで"すでに天下の大事か"と記して、都をはじめ畿内での騒乱を危惧しています(※3)。

また、頼政の挙兵の報がもたらされたのとほぼ同時に園城寺からの平家打倒を呼びかける牒状ちょうじょう(※4)に応じる形で比叡山の一部衆徒が園城寺と共闘の姿勢、興福寺・東大寺の衆徒を中心とする南都大衆なんとだいしゅが大挙して上洛するといった情報がもたらされるに至り、かねてより伝わっていた近江国おうみのくにの源氏による以仁王に賛同しての不穏な動きも相まって、都はにわかに緊張の度合いを深め、都の人々は恐れおののき、武士たちも動揺を隠せなかったといいます(※5)。

一方、平家もこうした非常事態に改めて対策を検討するべく、23日に予定されていた園城寺攻撃を一旦取り止め、安徳天皇を母親である平徳子と一緒に八条坊門櫛笥くしげの平時子(清盛の正室)邸(西八条邸)へ、高倉上皇を八条坊門大宮はちじょうぼうもんおおみや(西八条邸東隣)へと移し、都の守備を固めて不測の事態に備えました(※6)。

注)
※1・・・僧職の1つで、特定の門跡寺院の長として事務を総轄する地位。園城寺のトップを「三井長吏みいちょうり」と呼びました。
※2・・・『山槐記』治承四年五月二十二日条
※3・・・『玉葉』治承四年五月二十二日条
※4・・・宛名を連名で記して順に回して用件を伝える文(ふみ)。
※5・・・※3に同じ
※6・・・※2に同じ

《参考文献》
上杉和彦 『源平の争乱』 戦争の日本史 6 吉川弘文館 2007 年
川合 康 『源平の内乱と公武政権』日本中世の歴史3 吉川弘文館 2009年
上横手雅敬・元木泰雄・勝山清次
『院政と平氏、鎌倉政権』日本の中世8 中央公論新社 2002年


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およまる
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