小説「光の物語」第9話 〜春 1〜
「湖のお城へ?」
「ああ」
二人は庭園の東屋にすわり、数日後からの旅について話し合う。
ローゼンベルク王室では新婚夫婦がその城へ旅するのがかねてからの慣例であった。
婚礼の日から半月ほどがたったが、アルメリーアの夢見心地は続いていた。
夫となったディアルはこの上なく優しく、思いやりがある。
そしてなにより、婚礼の夜の言葉や態度に彼の誠実さを感じていた。
こうして何気なく話をしながらも、心はふわふわと漂っている気分だった。
それはディアルも同じだった。
というより、彼の方がもっと重症だった。
どうしても必要な時以外は片時も彼女から離れずにいたが、それでも全然足りなく感じた。
公務の際は居住まいを正してはいるものの、実際はまったくもって心ここにあらずなのだった。
「美しい城だ。亡くなった母も休暇のたびに訪れていたよ」
ディアルの母は数年前に病で亡くなり、父王はそれ以来一人身を通しているのだった。
「王妃陛下も・・・どんなお方でしたの?」
「そうだな・・・活発で、乗馬が好きだった。とても落ち着いた声と、賢い言葉を持っていたよ。必要な時は導いてくれるが、普段は大らかで・・・」
「まあ・・・すばらしいお方でしたのね」
「そうだな。亡くなるにはあまりに早すぎたよ」
少し考え込んだ彼の手をアルメリーアが両手でそっと握ると、ディアルは気を取り直して微笑み、彼女の額に口付けた。
旅支度の話をする間中、その手はつながれたままだった。
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