朝
少し肌寒さを感じながら公園のベンチに座る。街が眠っているように静かで、この世界に私以外の誰もいなくなったかのようだ。
弟がこの世を去って1年が経った。
あの日は、どんよりくらい雲で空が覆われていて胸騒ぎがしたが、物語の読み過ぎだと苦笑しながら病室に向かう。最近私たちは折り紙にハマっていて、昨日の夜に弟を驚かせられるようにペンギンの折り方を習得したので、それを披露しようと意気込んでいた。いつも通りの病棟に入ると、慌ただしい様子がある。病院なのでそういうこともあるだろう、と他人事のように見ていた私は、事態を飲み込んだ後も訳がわからずぼうっとしていた。
今も、時が止まったようにぼうっとしたままなのに、時間は変わらず過ぎていく。弟のいない冬、弟のいない春、弟のいない夏、そしてまた、弟のいない秋がきてしまった。私は人並み以上に幸福で、優しい両親や親友と呼べる子、気にかけてくれる友人たちに囲まれている。それなのに、いつもひとりぼっちだ。そして、そんな幸福をわかっていながら、ひとりぼっちだと悲観している自分が嫌いで、責め続けている。
キナコはヒーローのアンさんに声が届いき、暗闇から救い出してもらえた。だから、キナコは愛の「たすけて」が聞こえ、手を引き受け止めることがができたと思う。アンさんがキナコの声が聞こえたように、キナコに愛の声が聞こえたように、自分をひとりぼっちに感じて、そんな自分のことを責め続けている私だから聞こえる声がきっとあるんじゃないか。そう考えると、ひとりぼっちなことは決して悲しむことじゃないのかもしれない。きっと誰もが、独りの寂しさに枕を濡らす日がある。そんな時に隣で抱きしめてあげられる人になりたい。
ふと顔を上げると、道には車が走っていて、犬の散歩をしている人やジョギングしている人がいる。街が起き出した。
さあ、私もぼうっとしていられない。私に届いた52ヘルツの声に気づくことができるように。