二枚貝
漁師のニッキーは
漁を終えると
砂浜で二枚貝のミルキの唄を聞いた
二枚貝はミルキのただ一人の友人だった
わたしたちは
自分の持ち物と
相手の持ち物を
比べながら生きていて
交換しながら生きていく
塩と米を交換していた
あの頃と変わらずに
わたしたちは
もう交換しなくてもいいように
一緒に生きることを選んだ
二枚貝のように
激流に耐えるときも二人で
浜辺に打ち上げられたときも二人で
本当は一人でも生きていけるのだけれど
わたしたちは
一つになったわたしたちは
与えることも与えられることも
とっくのとうに忘れていて
わたしたちだけの世界で
わたしたちだけの言葉で
お互いの鼓動だけを感じて生きている
わたしたちは
もう比べなくてもいい
わたしたちは
もう交換しなくてもいい
もしも世界が二枚貝で溢れたら
もう人は
幸せの意味を探す必要もなくなるだろうに
ニッキーは昨日死んだ妻を思って泣いた
もしもぼくが二枚貝だったなら
彼女のいない世界にのうのうと生きるぼくは
もう死んでるのと同じだね
二枚貝はころころ笑って答えた
よおく見てごらんよ
わたしの片方の貝殻を
一人になるのも悪いことばかりじゃないさ
わたしの唄を聞いてくれる誰かが
まだこの浜にも残っているのだから
それから
ニッキーとミルキは
波打ち際の溶けては消えていく
泡を眺めては
失ったもう片方の貝殻を思い出して
夜明けまで唄った
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