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レシピを見ないで料理を作れるようになるにはどうしたらいいのでしょうか?
料理教室をやっていると、生徒さんによく聞かれる質問です。
少し長くなりますが、詳しく解説しますので是非お時間ある時にお付き合い下さいませ。
レシピは料理の設計図
まず、レシピとはどういうものか考えておきましょう。
今では誰でもレシピをブログやレシピサイトで公開したりSNSで発信出来る環境が整っていますので一言で言っても玉石混交ではありますが、プロの料理人やパティシエ、料理家がレシピ本などで公開しているレシピは、いわば料理の設計図です。
設計図は書いてある通りに作れば、誰でも(ほぼ)同じ味に作れるようになっています。再現性が高く、むしろ再現性こそが設計図(レシピ)の価値でもあります。レシピを見て作った料理の品質(味、おいしさ)を担保しなければならないからですね。
設計図ではなく、地図を手に入れよう
では、毎日毎日設計図を見ながら料理を作ったらどうなるでしょう?
少しずつ材料が残ったり、体調が悪くてあっさりした料理が食べたいのにレシピ通りの分量だと味が濃くてあまり食べられなかったり、なんだか少しずつ不具合が出そうです。
毎食毎食、材料や調味料をキッチリ計量するのも結構大変です。
それに、作りたいと思った料理に家族が嫌いな食材を使っていたら、食べずに残されてしまうかもしれません…
家族の食事を作る人にとって、作った料理を残されるのはとても辛いことですよね。
だから、なるべく家族の好みに合わせて料理を作りたいところです。そんな気持ちから「レシピを見ないで料理を作りたい」となるのではなないでしょうか?
では、設計図を見ないで料理を作るには何が必要なのでしょうか?
それは、地図です。
「こんなお料理が食べたい」と言うゴールに向かう道筋が決められるための地図を持っていればいいんです。
例えば、「今日は寒いから身体がポカポカ暖まるような料理が食べたい」と言うゴールがあったとしたら、そのゴールへの最終通過地点をカレーにするのか、鍋にするのか、はたまた熱々のグラタンにするのかを決める要素は、家にある食材だったり、買い物中のスーパーでの食材のお値段だったり、家族の好みやリクエストだったりしますが、そのゴールへと辿り着くための道筋は、沢山のパターンの中から選べるのです。
ゴールへの最終地点をカレーと設定したら、そこに至る道筋はたくさんあります。
カレールーと材料を使って作ったり、カレー粉と材料で本格的に作ったり、レトルトカレーを買ってきて温めたり、買ってきたカレーライスに家にあった食材や常備菜をちょい足ししたり、方法は色々ありますよね。
そうやって霧の中からゴールに向かって道筋を決められる地図を持てばいいんです。
どうやったら地図を手に入れられるの?
この地図は実は、誰でもみんな同じ地図を持てば良いのではないので一筋縄ではいきません。
「はい、どうぞ」
と渡されても、それは自分のゴールに辿り着ける地図ではない違う地図かもしれないからです。
なぜなら、ご自身の食や料理に対する価値観や技術、知識、作って食べさせたい家族や相手がいるかどうか、アレルギーや好き嫌いがあるかどうか、と言ったバックグラウンドが誰一人として同じではないからです。
時短レシピや作り置きレシピがなんだかしっくり来ないのは、そもそも自分の地図ではない(他人の地図をベースにしている)からなんですね。
ただし、ある程度共通化した「白地図」を手に入れるのは誰でも可能だと思います。
まずは白地図を手に入れて、各自で色を塗ったり、目印を付けたり、少しずつカスタマイズして、最初は平面で真っ白だった白地図が、フルカラー三次元の立体地図になっていけばいいのです。
料理が上達するって、そう言うことだと思います。そう、ちょっとだけ、時間がかかるんです。
その時間が取れない人は、まずは設計図通りに作ることから初めて、同時進行で地図を埋めていけばいいのです。
私は、そのお手伝いがしたいのです。
白地図を手に入れよう
では早速、料理における「白地図」を手に入れましょう。
つまり、料理の構成要素やフォーマットを知ると言う事です。塗り絵だって、アウトラインをなぞってから中を塗りつぶしますよね。その助けになるキーワードをご紹介します。
五味五色五法
この言葉、どこかで聞いたことがありますか?
私のnoteを読んで下さってる方でしたら過去記事に何度か出て来ているので覚えていらっしゃるかもしれません。
五味 … 塩味、甘味、酸味、苦味、うま味
五色 … 白、黒、赤、青(緑)、黄
五法 … 生、煮る、焼く、揚げる、蒸す
読んで字の如く、五味は五つの味、五色は五つの(素材の)色、五法は五つの調理法です。
だいたいのお料理は、この要素の組合せで出来ています。それぞれ1つずつの場合もありますし、複数組み合わせる場合もありますね。
肉じゃがを例を挙げますと…
【肉じゃが】
味 … 塩味(醤油)、甘味(みりん)、うま味(素材、出汁)
色 … 白(じゃがいも)、赤(肉)、緑(絹さや)
法 … 煮る
と言う具合です。
うま味は、出汁によるうま味と素材が持つうま味、両方が入っています。緑はレシピによっては入ったり入らなかったりしますね。
肉じゃがは「煮物」なので、同じように「白、赤、(緑)」の素材を「煮」て「塩味、甘味、うま味」で味を付けると煮たような煮物が出来る、と逆算、というか予測が出来ます。
例えば、白の素材を大根、赤を鶏肉に置き換えてみましょう。すると、大根と鶏肉の煮物が作れそうです。また、味付けの塩味(醤油)を酸味(お酢)に変えると、甘酸っぱいさっぱりした煮物が作れそうです。
このように、お料理の構成要素がわかると、レシピや名前のないお料理も要素を組合せて作れるようになるのです。
素材の組合せの相性や好みなどもあるので、これを覚えれば今すぐにでも名前のない料理がガンガンに作れるかと言うと、やや早計ではありますが、「白地図になりそうだ」と言う感覚は掴めて頂けるのではないかと思います。
白地図に色を塗ろう
五味五色五法と言う言葉で、料理の構成要素を理解して料理の白地図を手に入れました。
では、ここからさらに一歩進んで白地図に色や記号を入れていきましょう。
よりクリエイティブに名前のない料理を作るには、料理の構成要素だけではなく、人が美味しいと感じる美味しさの要素を知るのが近道です。
おいしい味の元となるのは「うま味」ですが、うま味調味料をそのまま舐めても美味しくないのはご存知ですか?
美味しいはずの「うま味」、それだけを純粋に抽出したうま味調味料は世界一美味しいもののような気がしますよね?
ですが、残念ながらうま味だけでは美味しくないんです。不思議ですね。
だから、うま味と他の味を組合せたり、美味しさの構成要素を知っておくと良いのです。
前置きが長くなりましたが、今度は五感です。
視覚(見た目)
聴覚(音)
嗅覚(匂い)
触覚(食感)
味覚(味)
人は、料理を味だけで判断しているのではなく、五感をフルに使って味わっています。
先程出てきた五色は、見た目と言うよりも栄養素的なカテゴライズ(白→炭水化物、赤→タンパク質やビタミン、等)でしたが、ここで言う視覚は見た目で食欲をそそるような彩りや盛付けかどうかということです。
聴覚を刺激する音は、熱々のお料理から聞こえる「ぐつぐつ」や新鮮な野菜から想像したり、噛んだ時に出る「パリッ」や「シャキッ」という音。
嗅覚はダイレクトに食欲を刺激しますね。カレーの匂いやうなぎを焼く匂いに誘われてお店に入った経験がある方も多いと思います。
触覚は手触りだけでなく、口の中で感じる食感も含みます。ただただ滑らかなポタージュにクルトンや粒のコーンが入っていると、食感にムラが生まれ、その違いを楽しむことにより一段美味しさがアップしますね。
味覚の部分では、アクセントになる味を組合せると平面的だった味わいに深みが出ます。少しの塩味を入れることで甘味を引き出したり、甘味の中に酸味を合わせたり、苦味を合わせることで複雑で立体的な味になります。
味わいを立体的にする要素としては、もう一つ「コク」があります。
コクは地図を立体にしてくれる
「コク」って、よく聞きますが、難しいですよね。「コクがある」「コクがない」のように使われます。
「コク」って、何に入っているのか、何を入れれば出るのか?レシピのどこにも書いてありません。塩味や甘味のように塩分濃度や糖度のように数値で測れないし、なんとなくぼんやりした概念に思えます。
特定非営利活動法人うま味インフォメーションセンターでは
「味、香り、食感に関する多くの刺激(複雑さ(深み))で形成されるものであり、それらの刺激に広がりや持続性が感じられる現象である」
と定義されています。なんだか難しいですね。
ちょっと乱暴な言い方をしてしまうと、コクは深みや複雑性などと表現されるように「味に立体感を出している」と考えられそうです。これまで出てきた五味や五感を刺激する以外の要素とは、なんでしょう?
これは個人的な経験則からなので、諸説あるかとは思いますが、手っ取り早くコクが出せる要素は「油脂」です。
「あっさりしているのにコクがある」のような記述を時々見かけますが、基本的にスイカやきゅうりのような水分の多いサッパリした素材にはコクは感じません。同じ植物性の素材でも、ごまやナッツにはコクを感じます。違いは色々あるとは思いますが、大きな要素としては「油脂」だと考えられます。
あっさりとした塩味のスープに物足りなさを感じた時に、ごま油をひと回しまわしかけたら、ぐっと味わいに深みが増した経験はありませんか?
ポタージュなどのスープにオリーブオイルを回しかけるのも同じ効果を狙っていると考えられます。
「ダイエットの敵!」と目の敵にせず、油脂と上手く付き合えると、レシピが無くても美味しいお料理を作れる手助けになってくれるはずです。
中華料理や韓国料理のごま油、フランス料理のバター、イタリア料理のオリーブオイル、など、美味しいお料理にはやはりしっかり油脂が使われています。
もちろん、体質や病気で油脂を控える必要があるのであれば使わない方がいいのですが、そうでないのであれば、適度に食事に取り入れるのは必要なことだと思います。
さて、あなたの白地図は、少し賑やかになってきたでしょうか?
あとは、先にも申しましたが、実践あるのみ。
ゴールを見据えて逆算するもよし、足元を見つめて一歩ずつ踏み出すもよし、あなただけの地図を握りしめ、あなたが食べたい料理を、だれかに食べさせたい料理を、お好きなように作ってみて下さい。
家庭料理において、レシピは本質ではない
ここまで、私が普段料理を作っている時に無意識にやっていることを、ちょっとした冒険譚風に書いてみましたが、いかがでしたでしょうか?
ここからは、いわゆるエピローグです。
この記事を読んで、なんとなくモヤモヤの中に光が見えた方も、余計こんがらがった方もいらっしゃるかもしれません。
ただ、私が一つ言えるのは
家庭料理において、レシピは本質ではない
と言うこと。
一応料理家の端くれとして、レシピを公開している人間の言う事ではないのですが。
お店で出す料理では、同じ味であることや誰が作っても同じ味になる(品質を保つ)ため、レシピは絶対に必要です。
でも、家庭料理ではたとえ同じ料理であっても、毎回同じ味にならなくていいのです。
「ならなくていい」どころか、そのゆらぎやブレこそが、家庭料理の価値なのです。
家族の体調や好みに合わせ、オートクチュールのように変幻自在で自由なのが、家庭料理の素晴らしさなのです。
もちろん、レシピは設計図ですから、新しいお料理を作る時はレシピ通りに作ってみて、それから好みに合わせてアレンジする事で、それぞれの「家庭の味」になっていきます。
全てをオリジナルの「名前のない料理」にする必要は無いし、全てレシピ通りに作る必要もないんです。
家庭料理は、もっと自由で、楽でいいんです。
少しずつ作り上げたあなただけの地図は、是非あなたの家族とシェアして下さい。家族みんなの、それぞれの地図が早く作れます。
サガシモノ、ミツカッタ?
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![古谷 真知子:家庭料理のコンシェルジュ](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/1744552/profile_87009e1565de117ba34797c7a970967e.jpg?width=600&crop=1:1,smart)