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ピクニックはブッラータと共に
これはまだ、コロナの「コ」の字も知らない3年ほど前のこと。
時々このnoteに登場する食に貪欲な友人(褒めてる)と私は、移転を目前に控えた築地市場でマグロのブロックを買付け、ブレザオラ、イタリアで言うところのモシャーメ、つまりマグロで作った生ハムを試作していた。
(その時の顛末はこちら↓)
レシピを検索しても見つからず、塩漬けまたは塩水漬けのどちらかであろうとの目星をつけ、友人は塩漬け、私は塩水漬けにして、生ハムをそれぞれ作っていた。
買付けから約2ヶ月後の某日。
友人と私は再び築地市場を訪れていた。
目的はマグロを買った仲卸の社長に出来上がったマグロの生ハムをお披露目するためだった。
なぜなら買付けした際に、私達が年甲斐もなく子供が新しいおもちゃを手に入れた時のようなキラキラした目で「マグロの生ハムを作るんです!」と興奮気味に宣言していたため、なんだかよく分からないテンションに気圧された社長から「出来上がったら見せてね〜」と言われていたからだった。
今にして思えば、社長にしてみれば社交辞令のつもりだったのだろうが、あまりの興奮に2人とも全く社交辞令とは気付かず間に受けてしまい、移転前の慌ただしい築地市場にノコノコとやって来てしまったのである。
そして、無事社長への製造過程の報告と出来上がりの生ハムを試食してもらうと言うミッションを成し遂げたのだ。はた迷惑な話である。
市場の朝は早い。
そう、プロの料理人や鮮魚店の仕入れが終わる頃とは言え、この時点でまだa.m.9:30。
せっかくの生ハムもあることだし、しかもこの日はまだギリギリ桜が咲いていた。2人ともその後の予定は特にない。
これはもう花見をするしかない。
花が咲いていなければピクニックでも良い。
とにかくマグロの生ハムをつまみにワインを飲みたい。
場所はどうする?と言うことで、協議の結果代々木公園に向かうことになった。
そうと決まれば、即行動。
途中、渋谷に寄りつつワインと、生ハムに合わせるチーズ、オリーブオイル、花見に欠かせない弁当を買い込んで、さらにテンション爆上げの中、代々木公園に到着した。
適当なベンチを見つけて、陣取る。
さすがにレジャーシートは見つからなかったのでベンチで妥協したのだが、この時点ではもうすっかり桜のことなど忘れている。花より団子なのは言うまでもないが、本当に桜が咲いていたかどうかさえ定かではない。
仲卸の社長に振る舞うため、ナイフやカッティングボードなどは持参していたため、早速マグロの生ハムをカットして宴会を開始した。
カンパーイ!
青空の下、昼間っから飲むワインのなんと美味しいことか。
しかもつまみは2ヶ月に渡り手塩にかけて作り上げたマグロの生ハムだ。楽しいに決まっている。まさにプライスレス。
そのまま一切れ、口に運ぶ。
しょっぱい。
それはそうだ。しかし、そのしょっぱさの中に凝縮されたマグロの旨味がぐわっと広がる。そこへワインを流し込む。もっと!もっとワインを持ってこい!もっとだ!…と言いそうになってやめた。
このペースで飲んではピクニックどころではない。
続いて、チーズと合わせた。
友人がチョイスしたブッラータだ。
この時、私はブッラータと言うチーズの名前は知ってはいたが、食べたことはなく、この時食べたこのブッラータがマイファーストブッラータであることを付け加えておく。
ナイフとカッティングボードはあれど、さすがに食器までは持ち合わせていなかったので、パッケージ内の液体をコップにあけ、ナイフでブッラータをカットした。
チーズ、入刀。
ブッラータの特徴であるストラッチャテッラがとろりと流れ出る。
あぁ。
卵黄にしろ、ブッラータにしろ、袋状の何かからとろりと流れ出る様は、なぜか人を狂わせる。
朝からおかしなテンションだった私達だが、さらにおかしなテンションでマグロの生ハムとブッラータを前に感極まっている。
待ちきれない。
このパッケージのまま箸で食べることにした。
何ということだ…
驚くほど芳潤な味わい。
さっきのあのしょっぱさはどこへ行ったのか、あの刺さりそうなほどに尖った塩気は。
ブッラータの優しくミルキーな味わいが、マグロの生ハムの尖った塩気を打ち消し、膨らませ、自身の旨味もしっかり乗せて主張しているのに、やり過ぎな嫌味がなく、むしろ清々しい。それら全てを包み込んで、仲人よろしく2人の仲を取り持つオリーブオイルの包容力。
これは…
2人ともしばし絶句する。
ランニングしていた老夫妻も訝しげにチラチラとこちらを見ているようだが、それどころではない。
初めての体験だった。
こういうのを、もしかして「マリアージュ」と表現するのではないか?と、はたと思い当たった。
この後、まぁ、買ったんだし、と弁当も食べたが、どんな弁当だったのか全く記憶にない。
それほどの衝撃だった。
これが、マイファーストブッラータ体験である。
それ以来、私がピクニックや花見にはブッラータを欠かさず持ち寄るようになったのは、言うまでもない。
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