第一章:人生と仕事の意義 1-1 仕事とは何か?
前回は、初回投稿と言うことで『2003年生まれ息子の就職活動を見守る親父が語る「君たちの未来は輝いている」』と題して、息子が産まれた21年前のことを思い出しながら、私がnoteを執筆しようと決めた背景を紹介した。
今回から全10章構成で、就職活動を成功させるための極意をお伝えしていこうと思う。
途中で内容が変わる可能性もあるが今のところの予定で章構成をお伝えしておこう。
第一章:人生と仕事の意義
第二章:変化の激しい時代を生き抜く
第三章:技術革新と人間の未来
第四章:日本と世界のつながり
第五章:自己分析とキャリアプラン
第六章:企業研究とエントリーシートの書き方
第七章:面接の準備と実践
第八章:学歴フィルターを乗り越える方法
第九章:ライフステージにおけるキャリアの考え方
第十章:保護者の心得
息子の就職活動を応援したいと思って自分の考えを整理していたら、非常に深いことまで考えてしまった。
息子の人生を考えるにあたり、自分自身の人生についても考えてしまった。40代後半でも考えることが多いテーマである。
では、早速「第一章:人生と仕事の意義」について話をしていこうと思う。
ちなみに「第一章:人生と仕事の意義」だけでも10個の記事を書こうと計画している。
「第一章:人生と仕事の意義」の第1回では「仕事とは何か?」について、考えてみたいと思う。
第一章 1-1 仕事とは何か?
就職活動をする息子(や就職活動中の読者の皆さん)に、まず伝えたいのが「仕事とは何か?」と言うことだ。
正確に言うと「伝える」と言うよりも、私自身も「仕事とは何か?」について一緒に考えてみたいと思う。
アリストテレスやマルクスも考えていた
「仕事とは何か?」「働くとは何なのか?」みたいなことは大昔の人も考えていた。
アリストテレスが考えた「仕事とは何か?」
アリストテレスは、古代ギリシアの哲学者である。プラトンの弟子であり、ソクラテス、プラトンとともに、しばしば西洋最大の哲学者の一人と称されている。
アリストテレスは「エネルゲイア」という概念を提唱した。これは「内にある働き」を意味する言葉で、生き物が持つ可能性(デュナミス)を実現するための現実活動を指した。例えば、カエルの卵が成長してオタマジャクシになり、最終的にカエルになる過程を考えてみると、この成長過程がカエルの「エネルゲイア」と考えた。
アリストテレスは、人間も同じように自分自身を実現するために活動すると考えた。私たちの目的は、人間として与えられた生命を充実して生きることにあり、仕事は単にお金を稼ぐ手段ではなく、自分自身を成長させ、充実した人生を送るための大切な活動だと考えた。
アリストテレスは、目的を「外在的なもの」と「内在的なもの」に分けて考えた。例えば、駅に行くために歩くのは外在的な目的で、駅に到着すれば目的達成する。しかし、健康のために歩くのは内在的な目的で、歩く行為自体に価値があると考えられる。
同じように、大学入試の勉強を例にとると、合格しなくても一生懸命勉強すること自体が意味のある活動だと考えられる。アリストテレスの「エネルゲイア」の見方では、目標に向かって努力すること自体が尊く、意義あるものと考えた。
私たちは一生を通じて働き続ける。仕事を選び、時に仕事を変えながら、自分の可能性を最大限に発揮して生きていく必要がある。アリストテレスは、エネルゲイアがその都度の「今」を活動しながら、目的を遂げるものだと考えた。
カール・マルクスが考えた「仕事とは何か?」
カール・マルクスは、プロイセン王国時代のドイツの哲学者、経済学者、革命家です。社会主義および労働運動に強い影響を与えた人だ。
カール・マルクスによると、労働者の労働力もまた商品であり、労働力と交換されるものが「賃金」とされた。この賃金は、労働者が次の月も働けるように最低限の衣食住を支えるための費用と位置づけている。つまり、私たちの1ヵ月の給料は、次の1ヵ月を生き延びるための生活費に過ぎないとマルクスは考えた。
マルクスは、労働者が1日生活するのに必要な労働時間を「必要労働時間」と呼び、この必要労働時間は労働者が生きるためのものであり、資本家はこの時間だけでは儲からない。そこで、資本家は労働者をより多く働かせ、「剰余価値」を生み出させ、この剰余価値が資本家の利益となり、労働者はその分「搾取」されることになると考えた。
労働力という商品は、他の商品のように消費されるだけでなく、余計に価値を生み出す特性を持っている。これにより、資本主義が成り立つとマルクスは論じた。資本主義社会では、資本家にならなければ豊かにはなれず、労働者はその労働力を売り続けなければならないと指摘した。
マルクスの考えは、労働がただの生活の手段であることを超えて、社会の構造と深く結びついていることを示している。彼は労働者の疎外感や搾取の問題に目を向け、労働者が真に自己実現できる社会の必要性を訴えた。
労働者と資本家
マルクスが論じた「資本家にならなければ豊かにはなれず、労働者はその労働力を売り続けなければならない」と言うのは少し過激に聞こえるかもしれない。
総務省「労働力調査(基本集計)」では、就業者に占める雇用者割合は女性で88.8%,男性で87.1%となっている。
つまり日本人の働く人の内、約9割が労働者になるわけだから「労働者はその労働力を売り続けなければならない」と言われると、過激思想に感じるかもしれない。
実際に「サラリーマン=労働者」でも、年収数千万円もらっていて裕福に見える生活をしているように見える方々も多く見てきた。
しかしForbes JAPANが毎年発表している「日本長者番付」を見るとマルクスの言っていることの意味を感じることが出来るかもしれない。
2024年版「日本長者番付」トップ10
1位 柳井正(ファーストリテイリング)/380億ドル(5兆9200億円)
2位 孫正義(ソフトバンク)/270億ドル(4兆2000億円)
3位 滝崎武光(キーエンス)/210億ドル(3兆2700億円)
4位 佐治信忠(サントリーホールディングス)/93億ドル(1兆4500億円)
5位 関家一家(ディスコ)/74億ドル(1兆1500億円)
6位 高原豪久(ユニ・チャーム)/62億ドル(9650億円)
7位 重田康光(光通信)/42億ドル(6530億円)
8位 森章(森トラスト)/41億5000万ドル(6460億円)
9位 安田隆夫(パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス)/41億ドル(6380億円)
10位 三木正浩(ABCマート)/40億5000万ドル(6300億円)
「日本長者番付」の上位10人は全員が起業家=投資家(もしくは起業家の一族)である。
労働者としてどんなに大成功しても1兆円を超える資産を築くのは無理である。
お金を得ることだけが「働くことの意味」だとも思わない。
彼らが全て幸せな生活をおくっているとも限らない。
ただマルクスが言うように「資本家にならなければ豊かにはなれず、労働者はその労働力を売り続けなければならない」と言うのは、ある一面では事実でもあることを知った上で就職活動に臨んで欲しい。
就活生なら年収が高い会社として有名なキーエンスを知っているだろうか?
キーエンスの2024年3月期における平均年収は2,067万円と非常に高く、また新卒2~3年目で年収1,000万円超えが期待できる会社とも言われる。
平均年齢が30代の会社で平均年収は2,067万円は夢のある話だが、そのキーエンス創業者の滝崎武光氏は資産額210億ドル(3兆2700億円)で日本長者番付の常連であることも知っておきたい。
ただしそのキーエンス創業者の滝崎武光氏は兵庫県立尼崎工業高校を卒業後、外資系のプラント制御機器メーカーに勤めた後、1度目の起業にチャレンジしたが倒産、2度目の起業も倒産、3度目の起業で設立した現キーエンスで大成功している点も知っておく必要があると思う。
大学生にとって「仕事とは何か?」
ここまでアリストテレスやマルクスなど歴史的な哲学者が考えていた仕事観について紹介してきた。
また日本長者番付から資本家として成功することのインパクトに関しても感じてもらえたのではないかと思う。
では、ここで考えを教えて欲しい。大学生である君は「仕事とは何か?」にどのような考えをもっているだろうか?
大学生にとっての「仕事」は多くの場合「アルバイト」ではないだろうか?
もちろん大学時代に起業して学生起業家として頑張っている人や、例えばプログラミングやデザインスキルがある人は業務委託契約などを結んでプロとして業務をおこなっているなんて人もいるかもしれない。
同じ大学生でも「仕事とは何か?」に対する考えは大きく違うのだと思う。
私は大学生時代「アルバイト」をしていたが、「アルバイト=仕事」は単にお金を稼ぐ手段でしかなかった。
「友達と遊ぶため」「飲みに行くため」「旅行に行くため」「彼女に誕生日プレゼントを買うため」「洋服を買うため」のお金を稼ぐ手段でしかなかった。
ただ「何のためにアルバイトしているのか?」なんて考えることもなかった。だから「仕事とは何か?」なんて、多くの学生は考えることもなく過ごしているのではないかと思う。
もしかしたら学生起業しているような人や、哲学を学んでいるような人は「仕事とは何か?」について考えたことがあるかもしれないが少数派ではないかと思う。
「仕事とは何か?」について自分の意見を持って欲しい
ただ、これから社会に出て働くことを本業とすることになる就職活動時に「仕事とは何か?」について考えることは意義があるのではないかと思う。
学生時代の私のように「仕事は単にお金を稼ぐ手段」と考えるのか?
アリストテレスのように「仕事は単にお金を稼ぐ手段ではなく、自分自身を成長させ、充実した人生を送るための大切な活動」と考えるのか?
マルクスのように「資本家にならなければ豊かにはなれず、労働者はその労働力を売り続けなければならない」と考えるのか?
起業して莫大な資産を築くことと考えるのか?=これは結果だけどね。
上記のどれでもない「仕事とは何か?」についての考えを持つのか?
これまで紹介したアリストテレスやマルクスが考えた「仕事とは何か?」に対しての答えは正解ではないし、不正解でもない。
学生時代のテストとは違い、社会に出ると答えのない問いを解いていかなければならない。
「仕事とは何か?」も人によって正解が違う問なのではないかと思う。
40代も後半になってきた私はアリストテレスの考えも、マルクスの考えも共感できるところがある。しかし100%同意かと言えば、それも違う。
それとは逆に、学生時代のように「仕事は単にお金を稼ぐ手段」とは考えていない。
今回は、私の考えを具体的に紹介することはしないでおこう。
多くの大学生に伝えたいことの1つとして「答えのない問いの答えを自分で考えて創り出して欲しい」ということだ。
その意味でも社会に出る準備段階である就活生が「仕事とは何か?」について自分の意見を持っことは意義深いと思う。
そして、そのような「答えのない問いの答えを自分で考えて創り出す」経験や、その考えを持っていることは就職活動にとってプラスであることは間違いないと思う。
ジョブ理論
ここまで歴史的な哲学者の仕事観を紹介してきたが近代の理論も1つ紹介しておこう。
ジョブ理論(Jobs-To-Be-Done)とは、イノベーション研究の第一人者であるハーバードビジネススクールの、クレイトン・クリステンセン教授が提唱している理論である。
ジョブ理論では、製品がどのような機能や性能を提供しているかではなく、製品が顧客のどのような課題をどのようなシーンで解決しているかを分析し、それを満たす製品・サービスを構想する理論だ。
この理論では、課題に対して「なぜ?」という問いを繰り返し、既存の商材自体の改善に捉われず本質的に「顧客が解決したいこと(ジョブ)」を知ることで、新しい視点から本質的な課題解決を促すことができるとされている。
ジョブ理論自体は、「人がなぜそれを買うのか?」という、顧客が商品やサービスを買う行為そのもののメカニズムを解き明かしたマーケティング理論なのだが、「顧客が解決したいこと(ジョブ)」を意識することは価値ある仕事を考える上でも重要な視点なのではないかなと思う。
時代によっても変化していく
「狩り」や「農耕」が仕事の中心だった時代には、仕事は生活維持のための手段でしかなかったのだと思う。
それが産業革命が訪れると機械化により生産性が飛躍的に向上し、社会全体の生活水準が大きく改善されるとともに資本家と労働者がうまれ、「働く」ことの意味も多様化したように思う。
今から10年ちょっと前にAIやロボットによって未来の「働く=仕事」が大きく変化すると話題になった。
AI・ロボットによって50%の仕事がなくなる
2014年、英オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授らによって発表された論文『雇用の未来ーコンピューター化によって仕事は失われるのか』は、20年後までに人類の仕事の約50%が人工知能ないしは機械によって代替され消滅すると予測し大きな話題になった。
65%の子供が今は存在しない仕事に就く
米デューク大学の研究者であるキャシー・デビッドソン氏が、2011年8月のニューヨークタイムズ紙インタビューで「2011年度にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業時に今は存在していない職業に就くだろう」と語っている。
これから「働く=仕事」はどのように変化していくのか?
AIやロボットの普及は、私たちの「働く=仕事」に大きな影響を与えている。そのことも意識をして「仕事とは何か?」を考えていく必要がある気がする。
単純作業の自動化
まず、AIやロボットが得意とする分野の一つが単純作業の自動化である。製造業では、すでにロボットが組み立てラインで作業を行う光景が普通になっているし、Amazonの倉庫で自走型ロボットが商品を運んでいる映像などを見たことがある人も多いのではないだろうか。
このような技術は、ミスが少なく効率的に作業を進めることができ、人間の労働者を補完する役割を果たしている。
クリエイティブな仕事
AIやロボットが単純作業を代替することで、人間はよりクリエイティブな仕事に専念できるようになると言われている。
例えばデザイン、マーケティング、戦略立案など、創造性や柔軟な思考が求められる分野で、仕事の質が向上し、個々の才能が発揮される機会が増えると考えられている。
ただデザイン、マーケティング、戦略立案などでもAI活用がすすんでいる。
リモートワークやデジタル化
コロナウイルスの影響も大きかったと思うがリモートワークが世界中で進んだ。
物理的なオフィスに縛られることなく、どこからでも仕事ができる環境が整い、これにより仕事と生活のバランスが取りやすくなり、働き方の柔軟性が向上したとも思う。
実際に昔は経費精算時は領収書を用紙に貼って経理に提出する必要があったが、今は経費精算ツールに領収書の画像を撮影して添付すれば提出できるので自宅から経費精算が出来る。
このような変化は、あらゆる業界、あらゆる業種ですすんだと思う。
人間の価値
AIやロボットが多くの仕事を代替する中で、人間だからこそできる仕事や価値を意識して「仕事とは何か?」を考えていく必要がある気がする。
例えば、感情的なサポートや高度な意思決定、人間関係の構築など、AIには真似できない人間特有の能力を活かせる仕事が未来の仕事となっていくのではないかと思う。
このように、AIやロボットの普及は「働く=仕事」の形態を大きく変える可能性がある。技術の進化に伴い、私たちは新しいスキルを身につけ、変化に適応することが求められる。しかし、AIやロボットの普及により仕事の質が向上し、より充実した働き方が実現されることも期待できるかもしれない。
まとめ
ここまで「仕事とは何か?」について歴史的な哲学者、イノベーション研究の第一人者、そしてAIやロボットが仕事や労働に与えるインパクトを研究する研究者などの考えなどを紹介してきた。
またForbes JAPANの「日本長者番付」の情報から資本家としての成功のインパクトも知ってもらえたと思う。
仕事とは単なる生活の手段にとどまらず、自己実現や社会貢献にもつなげられる幅広いものだと言うことを就職活動の中でも感じていって欲しいと思う。
「まとめ」として私がこの文章で1番伝えたかったことを改めて記して、この文章を締めくくりたいと思う。
就職活動では「答えのない問いの答えを自分で考えて創り出す」経験を積んで欲しい。