固定ギアの自転車による環島(台湾一周)の記録 その6
2023年4月28日から5月4日までの七日間、自転車で台湾を一周した。今回は、五日目の走り出しから六日目の終わりまで。
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朝の4時に起床。というより、日焼けか南京虫か分からないが、体が痒くて薄い眠りを重ねるしかなく、痺れを切らして起きることにした。
体は重くてあまり食欲もなかったので、ホステルの共有キッチンで湯を沸かして、朝食代わりに熱い紅茶を淹れた。外に出ると、辺りはまだ暗く、ホステルの犬が退屈そうに寝そべっていた。
この日の目的は龍磐公園大草原からの日の出を見ること。天気も悪くなさそうで、逃すわけには行かないので早々に出発することにした。
龍磐公園大草原
夜明け前、ブルーアワーの龍磐公園大草原をピストバイクで走ったこの時間は間違いなく環島のハイライトだった。自分の自転車で、自分の足で辿り着いた夢のような時間だったが、筆舌に尽くしがたいとはまさにこのことで、写真で見ていただければと思う。
草原には同じく日の出を待つ人が何人かいた。
せっかくなので、一人でスマホゲームをしていた少年に声を掛けて、写真を撮ってもらった。日本から来て環島をしていると言うと、伝わったのか伝わらなかったのか、不思議そうな顔でこちらを見ていた。
本当に夢でも見ているのかと思うくらいの素晴らしい時間で、名残惜しかったが、この日の目的地である台東を目指して先に進むことにした。
台東まで
そんなに時間的猶予もなかったので、先に進もうとした矢先、魚が釣れそうな河口を見つけたので戯れに竿を振ってみることにした。日本から持って来たイモグラブを投げ込んでいると、何投目かで当たりがあった。これは何かが釣れそうだ。そんな期待に胸を膨らませて調子よく釣りを続けていると、なんとポキっと竿先が折れてしまった。
その場で竿を修復するスキルもなかったので、この時点で台湾での釣りは終了となった。ちなみにこの日は急登と暑さで旅の中で一番根を上げて、竿も折れたし心も折れた散々な日になった。
龍磐公園大草原付近から逹仁(ダーレン)までは予想通りのアップダウンが続き、なかなか険しい道のりだった。補給もないので、この道を選ぶ場合は注意が必要かもしれない。
固定ギアの場合は登りよりも下りが辛い。車輪が回り続ける限りはペダルも回り続けるので、フリーギアの自転車のように足を止めることができない。僕の自転車の場合は競輪用のペダルストラップをつけていたので、足を抜いて下り坂をやり過ごそうにも、だらりとぶら下がったペダルストラップの先が地面に擦れてバランスを崩しそうになるので、結局足を入れ直して足を高速で回し続けるしかなくなる。スピードを緩めるにはペダルを回す力を逆方向に加えるか、ブレーキをかけるしかなく、すぐに腕の力に限界が来る。本当に地獄の時間だった。
そんなこんなで無事に台東に到着。到着が遅かったのと疲れすぎて街を散策する気が起こらず、宿の近くのコンビニで焼肉丼と酒を買って晩御飯を済まし、就寝。
6日目 台東〜羅東(ルオドン)
台東の宿泊もゲストハウスを利用した。「H&Taitung Puyuma Style」というキレイなゲストハウスで、スタッフも親切でいい感じの宿だった。直前予約で328台湾ドル(1,480円)と比較的安く泊まれて良かった。
この日は花蓮(ファーリェン)まで自走し、その先は本稿の「その2」で書いたように危険な道になるので鉄道を使って蘇澳(スーアオ)まで行く行程。(結果的に乗り過ごして羅東まで行った)
花蓮までは海側と山側の2つのルートがあったが玉山を見たかったので山側を選んだ。玉山は3,952mの標高を誇る東アジア最高峰の山で、九州よりも少し小さいくらいの国土にそんなに大きな山があることに驚いた。さらに台湾には3,000m級の山が200座以上もあるらしく、今回は台湾の外側をぐるりと回る旅だが、次回は内陸の方を歩いても面白そうだと思った。
台東から出発する前に、朝飯に「早餐店」と呼ばれる台湾の朝飯屋によった。早餐店は朝早くからやっており、ここで立ち寄ったお店はなんと朝5時からやっていた。朝早くに店を開けて昼前には終わるようで、朝食を外で食べる文化が根付く台湾ならではの営業スタイルがなんだかいい感じだった。お店の人も気さくで、甘いコーヒーをサービスしていただき、最後に一緒に写真を撮ってほしいと言われ、めちゃくちゃ加工が施される謎のアプリで一緒に自撮りをした。
多めの朝ごはんでエネルギーを補給した後は、とりあえず花蓮に向けて出発した。台東から花蓮の間の山側の道は、広大な山々と田園に囲まれた地帯となっており、視覚的にもリフレッシュしながら走ることができた。
途中、瑞穂(ルイスイ)と言う山間の小さな町に立ち寄った。今回は入らなかったが、温泉で有名な町のようだった。中華料理屋で食べたマトンチャーハンが腰を抜かすほど美味しかった。
瑞穂から花蓮まではもうひと踏ん張り、というところでこの旅初めての雨が降ってきた。スコールのような雨で、短時間でどかっと降ってすぐ止んでしまったが、汗まみれの体をリフレッシュできてまさに恵みの雨だった。
そんなこんなで花蓮に到着。花蓮駅は大きな駅で多くの人で賑わっていた。自転車をそのまま鉄道に載せることができると聞いていたものの、日本の感覚では違和感があったので半信半疑で恐る恐る自転車とともに駅の構内に入っていったが、当然なんら問題もなく入ることができた。
予定では蘇澳まで乗るつもりだったが、自転車のバンドの解除に手こずって乗り過ごして、一駅先の羅東まで乗ってしまった。後で精算すればいい日本での乗り越しとは違い、台湾での乗り越しは割と重罪であることは事前に調べて知っていたのでヤバいと思ったが、駅員に事情を説明すると次の駅で降りればいいよと言ってくれて、なんとか無罪放免となった。本当に感謝しかない。
羅東では「イランインスピレーション」というゲストハウスに泊まった。この時は台湾人の若者も多く利用していて、共有スペースは賑やかな雰囲気だった。オーナーはこれまた気さくないい人で、親切に施設の案内をしてくれた。洗濯物が終わるのを待つ間、共有スペースで日本から持ってきた文庫本を読んだが、久しぶりにまとまった日本語の文章を読んで少し安心した。共有スペースでは、恐らくバンドをしているオーナーの趣味か、日本でメロコアと呼ばれるジャンルの音楽が流れており、台湾の若い人たちがリアルに聞いている音楽に触れることができてとても楽しかった。
最終日は空港泊になるので、これが台湾で泊まる最後の宿。少し寂しい気持ちになりながら洗い終わった洗濯物を干し、眠りについた。
(次回へ続く)