暗記と記憶
何やら雑な認識が流布しているなと思うことに、「暗記」と「記憶」という概念があります。学習に不可欠なこのふたつの概念について私なりにまとめて見ます。
まず「暗記」ですが、これは学習における行為の一つです。何かを学ぶときの方略(strategy)の一つであると言えます。このうち、身につけようとしている知識を丸ごと覚えてしまおうとすることを「丸暗記」ということが多いようです。丸ごと覚えることは決して悪いことではありませんし、むしろ取りこぼしなく覚えることはよいことであるとも言えます。問題は、知識を分析的に捉えずに何となくそのまま覚えてしまおうという「棒暗記」になってしまうことです。これは覚えた後どうするのかということを考えていないことになってしまい、実際、覚えてもその知識を活用することができないことが多いようです。「丸暗記」という言葉を否定的な意味で使っている場合は、「棒暗記」の意味を含んでいると考えられます。
これに対して「記憶」は、頭の中に知識を定着させる過程、または知識が定着した状態をいいます。知識を活用するには、その知識が自分の頭の中にあることが前提となります。このため記憶は絶対に必要です。この記憶のための意識的な方法が「暗記」になるわけです。記憶していない知識でも、例えば紙に書いてある知識などを参照しながら活用することはできます。そしてそうした活用を繰り返すことで知らず知らずのうちにその知識を記憶に定着させてしまうことも十分にあり得ることです。言語学習においてはこれが理想的な知識の定着法です。母語での生活に必要な語彙はすべてこうして身につけています。しかし、活用の経験が不十分である場合などは、意識的な「暗記」によって「記憶」を促していく必要があります。
大学受験生へ向けた言葉で危険なのは、暗記至上主義と暗記厳禁主義です。暗記至上主義は学習者を棒暗記へ導くおそれがありますし、暗記厳禁主義は暗記という行為自体を否定することに繋がります。どちらも記憶の促進には繋がりません。大切なことは知識が頭の中になければ使うことができないと認識することと、知識を記憶に定着させるための適切な学習を実践できることのふたつです。
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