栗東市方言との待遇表現比較
大阪大学リポジトリで滋賀県の方言に関する論文が新たに公開されたと知り、読みました。
『阪大社会言語学研究ノート』第18号
今田実咲「滋賀県栗東市方言における待遇表現形式の記述的研究」
URL→https://doi.org/10.18910/86404
栗東市は滋賀県南西部(湖南地方)に位置する市で、私の地元(湖東地方)から直線距離で20kmほど離れています。車だと約40分。その栗東市出身の研究者の方が、自分自身が使っている待遇表現についてまとめられた論文です。ちなみに世代的には私より10歳下の方のようです。
筆者が⽣まれ育った滋賀県栗東市⽅⾔には、「ハル」「アル」「ヤアル」「ヤル」の待遇表現形式が存在する。
(1)学校に⾏かハル。
(2)駅まで歩かアル。
(3)英語の勉強をしヤアル。
(4)外の景⾊を⾒ヤル。
(中略)
アル、ヤアルは、筧(1982)でアル・ヤアルとひとまとめにされている通り、接続する動詞によって使い分けられている以外に違いはなく、同じ待遇表現形式とみなしてよいと考えられるため、本稿では(ヤ)アルと表記し、必要に応じて分けて扱う(後述)。
おー、うちと変わらへんな。栗東のほうでも「(ヤ)アル」「ヤル」を使わあんにゃな。
と最初は思いましたが、読み進めていくと、やはり私(や家族)の言い方とは違うなと思う点がいくつかありました。
①活用表に「ハラん」「(ヤ)アラん」「ヤラん」という否定形がある。
→私は「ハル」の否定形で「ハラん」はほぼ使わず(不適格とまでは言わないが)、専ら「ハラへん」と言う。「(ヤ)アル」「ヤル」もどちらかと言えば「~ん」より「~へん」で言うことが多い。
②「(ヤ)アル」を補助動詞として用いる際、「行ってアル」「行ってヤアル」どちらでも言う。
→私は「行ってヤアル」しか言わない。
③「来ヤハル」「しヤハル」「見ヤハル」のような「ヤハル」は使わない。
→私も使わないが、母(50代)は「ヤハル」を1拍一段・カ変・サ変動詞で使うことがある(カ変・サ変では「ャハル」とも)。
④カ変・サ変で「(ヤ)アル」を使う時は「キヤアル」「シヤアル」。
→私は「キャアル」「シャアル」と言うことが多い。
⑤一段・カ変・サ変動詞で「来ヤル」「しヤル」のように「ヤル」を用いる一方、五段動詞で「行かル」のような「ル」は用いない。
→私は五段動詞に付く「ル」も「行かった」「行かって」のようにタ形・テ形(=連用形)に限ってよく使う。なお、私は「行きヤル」のような言い方もするが、これは自分より下位の対象に使う表現であり、形が同じなだけで別の助動詞。
⑥「(ヤ)アル」は主語が二人称の時には使えない。
→私は使える。
⑦親しみを感じる同位・下位を対象に「ハル」は使わない。
→私も同じだが、母は使っていることがある。
⑧「ハル」→「ヤル」→「(ヤ)アル」の順に親しみが強くなる。
→「ヤル」と「(ヤ)アル」の間で特に親しみの度合いに違いはない。両者の違いは、「ヤル」はタ形・テ形や否定形で使うことが多く、「(ヤ)アル」は終止形で使うことが多いというぐらい。
・・・こうして箇条書きにすると、結構違いますね。必ずしも地域差というわけでなく、世代差や個人差も含まれるとは思いますが、やはり滋賀県の方言は、面積がそんなに広くない割に細かい違いが多いなと改めて感じました。