変なことを言うと、変なことを言われやすくなる
会話では通常、相手の言葉を受けて何か言うものです。あえて書くことでもありません。何らかの形で意思疎通ができる人ならば自然と理解しているものです。
これはつまり、会話に参加している誰かが変なことを言い出したら、話題が変な方向に吹っ飛ぶ可能性がグッと上がることを意味します。漫才だったら、変なことをばかり言う「ボケ」に対して話題の軌道修正を図る「ツッコミ」がいるため、うまい具合に話が進んでいくわけですが、会話をする全人類が漫才師ではありません。ツッコミ役がいなかったために、会話の迷い子が今日も世界のどこかで生まれているんです。
例えば、私の友人に両利きの人がいます。右手も左手も同じように使いこなせるんです。試しに文字を書かせると確かに両方の手で同じくらい綺麗に書き上げますし、草野球では両投げ両打ちという異能力選手へと変貌します。
さぞかし便利な生活を送ってきたんだろうと思われますが、予想外の欠点もありました。左右の判断が遅いんです。普通なら「右はお箸を持つ方」みたいに利き手を左右の判別に活用できるんですが、友人のように両方の手で箸が使えると左右の判断が難しくなる。ちょっと考えれば分かるんですが、急に「右へ曲がってくれ」とか言われても瞬時に右折できなかったりする。
そんな友人が編み出した対処法はクロックポジションでした。船や飛行機、あとは軍隊なんかで使われる方向指示システムですね。真正面を12時としたアナログ時計で方向を指示するもので、右を「3時の方向」、左を「9時の方向」なんて言うようです。そして、友人は「クロックポジションならいける」と言い出したので、私も友人のためにクロックポジションを覚えました。
とはいえ、世の中に漫才師がそこまでいないように、クロックポジションを日常的に使ってくれる人もいないんです。だから、健康診断も普通の人より手間がかかるようです。まあ、友人はもう慣れているんで、医師や看護師には事前に「急に言われても右と左が分からないので、壁の方を向いてくださいとか別の言い方をしてください」とお願いしているようです。ただ、この間の健康診断でお願いした医師は思わぬ質問に戸惑ったのか、こんなことを聞いてきたそうです。
「上と下は分かりますか?」
友人は「何を言ってるんだこの人は」と思ったそうです。その上、いざ診断が始まると、頼み事も忘れて平気で「右を向いてください」と言ってきたそうで、友人は軽く憤慨していました。あまりに特殊なお願いに医師は対応できなかったのだと思われます。
つまり相手が変なことを言い出したら、ふたつのパターンが考えられるわけですね。ひとつはもちろん、単純に相手が何らかの理由で突然変なことを言い出したパターン、もうひとつは実はこちらが先に変なことを言っていたパターンです。