謎の土地の謎の穴
その辺を歩いていると、誰が何の目的で使っているのか分からない土地を見かけるわけです。地権者に聞くなどの調査をすれば判明するんでしょうけれども、尋ねに行ったところで地権者は「何だこいつ」みたいな顔をするでしょうし、所有者不明土地なんてのが問題になっている昨今では地権者を見つけるだけで大変な場合もある。大人でも一苦労な調査でございますから、子供なんて「ここは何なんだろう」と疑問を持つことしかできないんです。
幼稚園児だったか小学生だったか、それくらいの頃だったと記憶しています。私は通学路に面した、とある土地が気になっておりました。その土地は工場の隣にあり、およそ10メートル四方の正方形をしておりました。工場を通り過ぎるといきなり現れる土地なんです。工場と通学路以外は田んぼに面していている。つまり、田んぼの隅にポツンとある土地でもありました。
それだけでも用途の不明さが際立ってるんですが、その土地は中央部が盛り上がっていたんです。高さにして2メートル弱でしょうか。土が盛ってあるのかと思いきや岩なんです。青みがかった色をしていて、脆いのか表面はボロボロ崩れ、小石となって下に転がっている。
そして、横にはふたつの穴が開いていました。縦横それぞれ数十センチほど、奥行きも同じ程度の横穴です。穴と言うよりは窪みに近いかもしれない。地上すれすれにできているため、かまくらの入口みたいにも見えました。
登下校中、その謎の土地の前を通るたびに私は「何だろうこれは」と思っていました。家や学校に着く頃には忘れてしまうため、誰かと疑問を共有したことはありません。現地に来て疑問を思い出し、少し離れれば忘れてしまう。その繰り返しでした。
ある日、その穴に何やら物が入れられていました。丸めた紙でございまして、子供の目にもゴミだとすぐ分かりました。しかも、律儀に左右両方の穴に入っている。謎の土地は柵がなく、誰でも自由に出入りできる状態でございましたから、どこぞの不届き者が不法侵入し、ノリでゴミを突っ込んだのでしょう。その後も、私は通るたびに「あー、ゴミがあるなあ」と思っていました。
見たところ、数週間から数ヶ月にひとずつという、ゆっくりとしたペースでゴミは増えてゆきます。一応、管理者はいるようで、忘れた頃にゴミは取り除かれ、またゆっくりとしたペースでゴミが放り込まれる。それを繰り返していました。
予兆は土地の周囲の柵が設けられたことでした。しかも、工事現場で使われるような、黄色と黒の縞々でお馴染みの、かなりしっかりしたやつです。それから程なくして工事が始まり、盛り上がってた部分が穴ごとなくなり、謎の土地は平らになってしまいました。柵も工事が終了したら撤去されてしまい、完全に平坦な土地です。
いよいよ謎の土地に何かできるのかと思ったんですが、平らにしたらまた放置です。土がむき出しの平地にはたちまち草が生え始め、私が小学校を卒業する頃には2メートル近い草が生えた、小さな荒れ地となっていました。
小学校を卒業すればいつもの通学路ともお別れです。それからは散歩やジョギングなどで数年おきにしか謎の土地のそばを通らなくなりましたが、いつでも草ボーボーの荒れ地です。試しに先ほど、グーグルストリートビューで謎の土地を確認しましたが、ちゃんと草ボーボーでした。謎の土地はずっと謎であり続けています。
あまりにゴミを突っ込まれるから岩を取り除いただけなのか、本当は何かに活用しようと思ったけれども平らにした時点で面倒になり放置したのか。とりあえず、謎の土地はいつ見ても同じくらい荒れ果てています。
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