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食べ物で遊ぶプロフェッショナル

 「食べ物で遊ぶな」という説教があると思うんです。お子さんがスパゲッティの端を掴んでグルングルン振り回している時なんかに飛んでくるご両親の怒りです。料理をした人はもちろん、食材を作ってくれた人、果ては人類の食事のために命を差し出してくれた生物に申し訳ないと思いなさい、みたいな言葉がオプションとしてついてくる場合もあります。「食べる以外の用途で使うな」ということなのかもしれません。

 しかし、そうすると「飴細工やシャンパンタワーはどうなんだ」という話になります。遊びにしたって派手が過ぎる。それだけやっておいてお子さんに「食べ物で遊ぶな」は、言われた側も疑問を持つと思うんです。そう思って軽く検索してみたら、やっぱり同じような疑問を持っている方がチラホラいらっしゃるようでした。何なら、キャラクターを模したお弁当こと「キャラ弁」にそんなことを言う方がいらっしゃったとの情報も。真偽は不明ですが、確かにキャラ弁も遊んでいると言えば遊んでいるように見えるかもしれません。

 いろんなことに詳しくない私は飴細工やシャンパンタワー、キャラ弁などに対する「食べ物で遊ぶな」との批判は今でほとんど見聞きしてきませんでした。どれも現在に至るまで普通におこなわれているところから考えるに、肯定的な人が多いのだと思います。「食べ物で遊ぶな」という考えを持つ人は少ない。では、お子さんパスタグルングルンとどこが違うのでしょうか。

 2024年3月7日放送の水曜日のダウンタウンで、お笑いコンビ「ママタルト」の大鶴肥満さんは「実はハゲてるのに体格の良さに目が行ってしまいなかなか気づかれない」ということをおっしゃってました。身長182cm・体重189.5kgというあまりにも恵まれた体格により、髪型が霞んでしまっているようなんです。

 どこか極端な部分があると、そっちばかり注目してしまう。飴細工やキャラ弁ならばそれは本物そっくりの造形であり、シャンパンタワーは整然と並べられたグラスやタワーの高さ、流れるシャンパンの綺麗さだったりするわけです。確かに、極端なゆえに「食べ物で遊ぶな」という説教を忘れてしまう、または言うのが野暮になってしまう不思議な空気が出ています。もちろん、言う人は言うでしょうけれども、言える人は圧倒的少数になる。

 お子さんがリンゴをポンポン投げ合っているから「食べ物で遊ぶな」なのであって、165キロの速球でズバンと投げれば「ちょっと待て、何だその肩は」となるわけです。先ほどのお子さんパスタグルングルンだって、漫然とグルグル回しているから怒られるわけで、それで空を飛び始めたらご両親も「食べ物で遊ぶな」どころじゃなくなるわけです。

 他の理由も考えられます。「遊ぶ」からダメなのであって「仕事」になればいいのではないか。

 キャラ弁はともかく、飴細工やシャンパンタワーは仕事の一環としてやっている場合が極めて多いです。つまり、「遊びでやってんじゃないんだよ」という状態でございまして、「こちとら仕事じゃ」の精神です。非合法なものならともかく、「仕事」となってしまうとこれは結構な市民権を得たに等しくなります。その昔、ゲームはただの遊びだと見なされてきましたが、プロのプレイヤーが数多く出てきた現在ではeスポーツがオリンピック種目に入るんじゃないかとの見方まで出てきています。「仕事」とはそれほどのものなのだと思います。

 つまり、先ほどのお子さんパスタグルングルンだって、稼ぎがなければご両親は何の疑問もなく「食べ物で遊ぶな」と叱れるわけですけれども、その動画が無茶苦茶バズってしまい、グルグル動画の広告収入で生活できるようになると話は変わってくるに違いありません。ご両親は「やめろ」と言いづらくなりますし、お子さん側としては「食べ物で遊んでるんじゃない。食べ物で飯を食ってるんだ」との主張が出てくるでしょう。「一周回って」感がすさまじい主張ですが、それが「プロ」というものなのだと思います。

 そう考えると、説教するのって難しいんですね。子育ては大変です。あとシャンパンはどっちかというと飲み物です。

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