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霧箱から雑草の謎を解決しようとしてはいけない

 古い建物が取り壊されて地面むき出しの更地になるとします。そうすると、大体あっという間に雑草が生えてきます。あれが未だに不思議に見えるんです。大人でもそうなんですから、子供の頃の私はなおさら不思議に思っていました。

 もちろん、雑草とは言え植物ですから、どこからともなく種が飛んできて芽を出し、1本の草に成長すると知識では知っていました。しかし、今まさに種が地面に着地する瞬間を見たことがないですし、地面の上に雑草の種が転がっているところも見たことがありません。「本当に種が原因なのか?」と疑う余地が自分の中にあったわけです。

 そもそも、住宅地だろうが都心だろうが、突然ポッカリと現れた更地を放置していれば、あっという間にガンガン生えてくるのが雑草という存在なんです。雑草の種がいくら小さいとは言え、更地に飛んできすぎじゃないかと思いました。そんな飛んでたら、風に乗ってビュンビュン飛んでいる種を簡単に目撃できるはずなんですが、全然そんなことはない。どうなってんだ雑草、との疑問を禁じ得ませんでした。

 そんなある日のこと、世の中には「霧箱」というものがあると知りました。

 要するに特定の状況を作り出すことで、空気中を飛び回る放射線が見えるようになるという不思議な箱でございます。放射線は普通、人の目には見えない。それでいて、生き物の体とか建物の壁とか、そういうものを当たり前のように通過しますから、室内で霧箱を作っても簡単に放射線の軌跡を確認できるんです。

 霧箱を見た私、「これだ!」と思ってしまったんです。「雑草の種もこんな感じなんじゃないか」と。目に見えない上にその辺の構造物を余裕で貫通するならば、都心で更地ができた途端にニョキニョキ雑草が生え始める現象にも納得できると考えたんです。

 当然ながら、そんなわけがないんです。いくら雑草の種が小さかろうと、放射線の粒子の小ささには遠く及ばないというか、及ばなすぎるにも程があるレベルです。遮蔽物を貫通する種なんて存在しえない。存在してたらいろんなものが穴だらけになってしまいますし、何なら穴だらけになりたくない人類によって絶滅に追い込まれていてもおかしくない。

 では、雑草はどうしてあんなに突然、生えてくるのか。みんな不思議に思っているからなのか、検索したら割と簡単に解説ページが出てきました。

 雑草の種が人の目につきにくいという面もありますが、肝心な点は更地への侵入経路が思ったより多彩というところでしょう。風で飛んでくる他にも、動物の体にくっついて運ばれてくるもの、鳥の糞から芽を出すものもございます。更には、種からではなく、地面に残されていた茎や根から生えてくる場合もある。種の存在にばかり気を遣っていても、雑草の謎は解決できなかったわけですね。

 それにしても、霧箱から勘違いした、幼い頃の私です。ちゃんとした科学の知識も学ぶ側がアホだとよく分からない結論に至るいい例を示したと言えます。

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