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ゲームで飯を食いかけているのか

 ゲームをやってくれと友人から頼まれました。それまでゲームなんてしたことのない友人が珍しい頼み事をするもんだと思っていましたが、内容を聞いて納得しました。そのゲームは友人が昔から好きな、イギリス発の眼鏡少年が杖を振り回すあの有名なシリーズのゲームだったからです。そうです、エクスペクトがパトローナムなんです。友人としては「大好きなシリーズのゲームをやりたいが、何しろゲームは詳しくない。だから、ゲームに詳しい星野もやってくれ、何か詰まったら聞くから」という魂胆のようです。

 私、ゲームはちょこちょこやってきた身の上ですが、その手の魔法世界にはほとんど触れずに現在までやってきました。もちろん存在は知っていますが、内容はほとんど知りません。だから、ゲームをやり始めて己の無知に思い知らされることになります。

 そもそもキャラクターの名前が頭に入っていないんです。それなのに、ダンブルドアとかフリットウィックとか、そこそこ長い名前の人が多い。私としては「白髭」や「小っちゃいおっさん」と言った、分かりやすいあだ名で対抗するしかありません。

 ただ、無知ゆえに今更な発見を新鮮に体感できてもいます。エクスペクトがパトローナムする魔法は、主人公がいい場面でポンポン使ってる印象があったので、きっとそっちの世界の最強魔法であり、原作ではあらゆる悪いやつを吹っ飛ばしてきたんだろうと思っていたんですが、ゲームをやっているうちに全然違う効果なんだと思い知ることになります。あと、シリーズの悪役として有名なのは名前を言ってはいけない人だと思うんですけれども、みんな割と簡単に口を滑らせて名前を言いかけたり全部言っちゃったりしてるんです。よく分かりませんけど、ゆるいところはゆるい世界観のようです。

 さて、よく分からないなりにゲームで魔法世界を堪能しておりますと、早速、友人がSOSを出してきました。クィディッチがうまくできないと言うんです。

 ご存じ、クィディッチは例の魔法世界の中に存在するスポーツの類でございます。実際のクィディッチのルールは未だに把握できておりませんけれども、ゲーム内ではある程度の操作ができれば勝てる仕様になっておりますので、特に気にしていませんでした。だが、友人は違った。

 あれこれ攻略法を教えても、友人にはそういう呪いがかかっているんじゃないかと思えるほど、クィディッチで負け続けます。「もういい、星野が直接やってくれ」。私はコントロールを受け取りますと、いつものように難なく勝利しました。ハッキリ言って普通の人間なら勝てるはずなんです。しかし、友人からの羨望の眼差しが止まりません。

 不思議な気分でした。普段は私が羨望の眼差しを友人に送ってきたからです。友人はトークがうまく、特に交渉事が強い。交渉ばかりするお仕事をしているせいか、お店に行けば従業員を笑わせ、和気あいあいの雰囲気でガンガン値切ったりします。人見知りでいつも店員の言い値でものを買ってきた私には、超人にしか見えません。そんな私が、ゲームをちょこっとするだけで尊敬されるなんて、なんか新手の詐欺をしている気分です。

 友人からしてみたら、私のクィディッチの腕前がよっぽどうまく見えたのか、「なんか欲しいものがあったら言ってくれ。安く手に入れてやるから」と言ってくれましたし、実際に安く手に入れてきます。もちろん、ちゃんとした交渉の末に手に入れたのでしょう。最近ではプロゲーマーも当たり前になり、過去一ゲームで飯を食える時代になってきています。そんなプロゲーマーからしてみたら、私は相当ボロい仕事をしてるように見えるはずなんです。「そんな腕前であんなもんを半額でゲットですか」みたいな。

 もちろん、私としてはプロゲーマーなんて大それたものになっているつもりはゼロです。むしろ、組長の息子がやってるドラクエのレベル上げを手伝う若い衆みたいなポジションです。どこかでまことしやかに存在が言い伝えられていたあの若い衆に私はなっているのですか。そう考えると感慨深いものがあります。

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