非売品欲の高さゆえに
大学では時にオープンキャンパスがおこなわれます。学生は大学の雰囲気を肌でとらえ、受験勉強のモチベーションアップに繋げようとし、大学側は学校の良さを学生に伝え、ひとりでも多くの生徒を確保しようと頑張る。今もそんなイベントだと思います。
ところで、私の知人にとにかく非売品が好きな人がいます。ここでは仮に勅使河原さんとしておきますけれども、勅使河原さんは非売品なら懸賞でゲットするものから無料配布されているものまで、片っ端から手に入れておきたい人なんです。もちろん、非売品なら何でもいいというわけではないようですが、小皿とか保冷バッグとか、そういう配布物は使う予定がなくても欲しくなるんだそうです。
しかもです。勅使河原さんは非売品ならば、1個よりは2個、2個よりは500個欲しい人なんです。もうどうしちゃったのと言いたくなるほど底抜けの欲望です。その欲望を満たすためなら、友人知人に手伝ってもらうことくらい全然厭わない。だから、「お一人様ひとつ限り」という配布イベントに私も何度となく駆り出されまして、ゲットした非売品を勅使河原さんに献上、代わりに私はお菓子をゲットするという貿易条約を締結しているんです。
さて、そんなある夏の日のことでございます。勅使河原さんは高校生になる娘さんのため、大学の情報を集めていたところ、近くの大学のオープンキャンパスで、訪れた学生に大学のオリジナルグッズを無料で配布するという情報をゲットしました。当然ながら非売品欲をしっかり刺激された勅使河原さん、娘さんをダシにオープンキャンパスへ行くという計画を立てます。
娘さんはその大学に行く気など全然なかったのですが、勅使河原さんの非売品欲はよく知っていましたから、「ああ、はいはい。またあれね」みたいな感じで引き受けたそうです。
いよいよオープンキャンパスに行きまして、受付で娘さんの名前と高校名を伝えたところ、相手の顔が一瞬で曇ったそうです。「え、〇〇高校ですか?」と、明らかに怪訝な様子です。「失礼ですけど、本当にうちを受けるご予定ですか?」とまで聞いてくる始末。
勅使河原さんは非売品欲こそ異常値を示す方でございますけれども、子供への教育はちゃんとしていたようで、娘さんを結構な進学校に通わせていました。それが裏目に出たんです。その大学へ主に進学する人は、地元の普通科の学生ばかりでございまして、勅使河原ジュニアさんのような進学校の生徒が進学するケースは過去になかったんです。だから、受付の方は「〇〇高校の生徒がうちを受けようと思うわけがない」と簡単に勘付いたんです。
冷やかしがバレた勅使河原さん、オープンキャンパスで門前払いを食らいそうになったんですが、何しろ非売品欲MAXの人類です。何とか交渉して大学グッズだけはゲットしてきたと言うから、本当に凄まじい行動力です。
というか、オープンキャンパスで門前払いされそうになる場合があるなんて知りませんでした。もちろん、勅使河原さんが話を盛っている可能性は考えられますけれども、キャンパスは全高校生にオープンされているわけではないなんて驚いたんです。こんな進学校の生徒が来たら卒業後に活躍し、大学の宣伝になってくれるなんて発想にならないんでしょう。そして、残念ながら、そうなる可能性の方が高いでしょうし、実際、勅使河原さんの娘さんはその大学へ進学はしませんでした。
今考えると、勅使河原さんの非売品への欲望が前面に出過ぎていたのかもしれません。だから、大学側も不審に思ったのでしょう。いずれにしろ、大学側は当然の選択をしたと言えます。そして、勅使河原さんはそんな出来事に全く懲りず、以降も非売品を集めまくっておりますし、何なら今日も私は勅使河原さんによって非売品ゲットの旅に連れていかれる運命です。
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