笑いに関する名言集――人にとっての笑い
お笑いが好きだからなのか、現在、「笑い」に関する名言を集めておりまして、その成果をここで小出しにしています。今回で3回目になります。
ここでは笑いの名言を以下のみっつのどれかに当てはまるものとしました。
さて、世の中にはヒトという生き物がいて、もちろんヒト以外の生き物もまた大量に存在しています。じゃあ、ヒトとそれ以外の生き物はどう違うのか。ヒトをヒトたらしめているものは何か。「いやいや、明らかに違うじゃん」と思いますが、細かく検討してゆくと、なかなか大変なようです。
私が軽く調べた感じ、その大きな理由はどうも「ヒト独自のもの」が見つかりづらい点にあるようです。「言葉を使うのはヒトだけじゃね」と言ってみても、他の動物だって鳴いたり吠えたりして会話っぽいことをしている。これは言葉じゃないのか。みたいに、キッチリ調べようとすればするほど反論が出てくる。
「ヒトには感情があるじゃん」と思ったところで、怒ってる犬とか見ても、ヒト独自のものじゃなさそうです。ダーウィン(1809‐1882)が1859年に刊行した「種の起源」は現在の進化論における土台ともなった本ですけれども、これによってヒトは違う動物から進化してきて今のようになったらしいという考え方が根付くようになります。そうすると、「ヒト以外にも心ってあるんかな」という疑問を抱く方々が現れ、「動物心理学」という学問が生まれていきました [ 参考:動物たちは何を考えている?(技術評論社、2015)]。
とまあ、ヒトとそれ以外とを分けるのは難しいようですが、それを「笑い」に見出した一派がいらっしゃいます。今回はそんな方々をご紹介いたします。
フルク・グレヴィルはイギリスの詩人であり劇作家であり、政治家としても知られています。友人であり詩人などで有名なフィリップ・シドニーの伝記が最も有名な作品となっています。
「笑い」をヒトと他の生物とを分けるものとしてあげたのは、今のところはクレヴィルが最古です。ただ、大昔から哲学者や作家がヒトとそれ以外との分け方についてあれこれ考えてそうなので、もっと調べたら更に古いのが出てくるかもしれません。
ジョゼフ・アディソンはイギリスの政治家として活動していましたが、友人のスティールと共に日刊「スペクテーター」誌を創刊、分かりやすい文章で当時のあらゆる話題を扱いまして、アディソンの文章は「中庸の文体の模範」と言われ、18世紀における市民文学の基礎を確立したと評価されています。
そんなアディソンは「笑い」でヒトとそれ以外を分けているだけでなく、「笑う」という行為にかなりの価値を見出していたようです。
ウィリアム・ヘイズリットはイギリスの著述家として知られ、牧師や肖像画家を経て記者として名をあげまして、エッセイなどでその名を知られるようになります。
笑いと泣きが一緒くたになっていますが、ヒトがどうしてそうするのかをヘイズリットなりに考え、結論を短くまとめたのだと考えられます。
個人的には現在でも芸人が時々口にする「笑いは裏切りだ」という言葉に通じるものがあると思いました。観客の予想を裏切ることにより起きる笑いは、まさに「あるがままの事実と、あるべきはずの事実との相違に心を打たれる」状況なのではないかと。
ジェイムズ・レイ・ハントはイギリスの著述家で、詩などの作品を残しています。
ハントは笑いがヒトだけに授かったものと見ており、ヒトに理性があるがゆえのものだと考えていたようです。
アンブローズ・ビアスはアメリカの作家であり、ジャーナリストであり、代表作「悪魔の事典」で知られた人物です。「悪魔の事典」はもともと「冷笑家用語集」とのタイトルで刊行されていて、辞書風な体裁でブラックな笑いを誘う文章を書きまくる内容になっています。だから、上記のような感じになっているわけです。
しかし、そんな皮肉大好きなビアスですら、笑いはヒトとその他の動物とを分ける指標として使っています。その理由として「動物どもは人間が手本を示してみてもそれに刺激されて笑い出すことがない」ことをあげています。
現代では、ヒト以外にどうやら笑っているらしいと見られている動物が存在しており、チンパンジーやゴリラ、オランウータンなどがそれにあたります。ただし、ヒトのように「誰かが笑うとそれが伝染するようにして他の人も笑う」という現象は見られないようで、そのような笑いは今のところヒト独自のものと見られています。ビアスはそこを指摘しているように思います。
ここまでいくつかの名言を見てまいりましたが、皆さん、笑いを特別視しており、大切に思ってきたことがうかがえます。同時に「じゃあどうして笑いはヒトだけなのだろう」という謎に突き当たり、あれこれ思考を巡らせたであろう方もいらっしゃいました。
大切なものなのは確かなんだけど、分からないことがたくさんある。それが人類にとっての「笑い」のようです。
◆ 今回の名言が載っていた書籍