そう言えば夏服が定まってなかった
学生時代は春と秋に衣替えがあるため、服装の切り替えがハッキリしていましたけれども、社会人になった今となっては切り替え時期がぼんやりしてしまいました。お陰で、春と秋はいつも袖の長さに悩まされるんです。いろいろ考えた結果、人より余計に汗をかいたりブルブル震えたりする羽目になる。
特に最近は体温を保つ能力が失われてきたのか、こういう秋や春の晴れた日は、日向だと「あちーあちー」と騒ぐくせに、日陰に入った途端に「さみーさみー」と騒ぐんです。この調子だと、もう10年くらいしたら体温調節機能がトカゲと同じレベルになってしまうかもしれません。人類初の変温動物になってしまう。厳寒期には冬眠する生活を強いられるわけでございまして、それを避けるには南に逃げるしかない。なかなか難儀な運命です。
話は変わりますが、世の中にはいろんなステレオタイプが存在します。それは犯罪者に対しても同様でございまして、泥棒と言えばほっかむりをかぶって唐草模様の風呂敷包みを背負った人を思い浮かべ、殺し屋と言えば黒いスーツを着ているイメージが圧倒的に強い。
露出狂と呼ばれる変質者にもステレオタイプが存在します。ロングコートに身を包んだ怪しい男が、道端を歩く女性の前に現れ、コートをバッとめくると中は何も着ていない。いつ誰が何のつもりで始めたのかは知りませんが、露出狂の典型例と言えばこれであり、ギャグ漫画とか芸人のネタとかで散々使い倒されてきました。量産型露出狂と言っていいでしょう。
そんなある日、思ったんです。量産型露出狂の格好はロングコートでございまして、どう考えても冬の装いでございます。「じゃあ、夏服はどうなんだ」という話なんですが、なぜか夏の量産型は存在しないんです。
露出狂は夏季休業しているのかと一瞬思いましたが、そんなわけがありません。むしろ、裸を見せるんだったら夏の方が向いていますから、冬よりバリバリ見せてるはずなんです。となると、夏は「これこそ露出狂だ」と言える格好が業界内で定まっていないことになります。
じゃあ、夏の露出狂は実際どんなスタイルなのか。確認したいのは山々ですが、私は見かけたことがありません。ネットで検索してみたんですが、猥褻な動画とか卑猥な漫画ばかり引っかかってくるんです。私はそんなものが見たいんじゃなくて、夏における露出狂の正しい生態を知りたいのに、真実は闇の向こうと申しますか、エロの向こうでございます。ならば推測するしかない。
まず思いついたのが、普通の格好で歩いているけど、いざターゲットを目の前にした途端、ズボンを脱ぐというシンプルな方法です。でも、相手の前でベルトをカチャカチャしているのは華麗さに欠けます。女性を泣かせる犯罪にそんな美学なんていらないと言えばそれまでですけれども、そんなもたつくスタイルはやっぱり根付かないでしょうし、ステレオタイプになりづらい。ロングコートの華麗さには遠く及びません。
いろいろ考えた末に至った結論はバスローブでした。半袖タイプなら夏でも充分に使える。ただ、露出狂だってバスローブで外を歩くのは逆に勇気が要ると思うんです。そういう羞恥心は残っているはず。そもそも人の少ない路地でバスローブ姿なんて、それだけで通報されそうです。
結局、露出狂でも何でもない私に露出狂のステレオタイプを確立させるなんて不可能なんです。やはり本職がやるしかない。本職が創意工夫して、サマースタイルを確立するんです。
これまで露出狂の夏服は定まってきませんでしたが、本職が真剣に考えるとなると今後はどうなるか分かりません。「これぞ夏の露出狂だ」とみんなが納得できるステレオタイプを確立する事件が、もしくは作品が、現れるかもしれないんです。
ただ、夏服を確立させても、事件を起こした人はちゃんと刑務所で反省してほしいと思います。