「編みかえ」のお話
こんにちは、owarimao です。レース編みをしながら編物・手芸関連のことをいろいろ書いております。
突然ですが皆さんは「編みかえ」ってしたことありますか? 私は一度だけあります。
「編みかえ」(編み直し、編み返し)とは、一度編んだセーターなどをほどいてまた別のものを編むことです。昭和30年代の編物全盛期には、日本中でごく普通に行われていました。
作家・群ようこ(1954〜)さんの次のような著書に、そのことが書かれています。
群さんは昭和29年、東京小石川のお生まれです。おうちは特に貧しくはなかったようですが、それでもここまで徹底して経済的な衣生活をされていたわけです。
本当にこんなことをどこの家でもしていたの? と感じる方もあるかもしれません。群さんのお母さんが特別マメな人だっただけじゃないかと。
でもそうではなくて、本当にやっていたんだとわかるような広告をお目にかけましょう。
この薄い本はシリーズ物の一部で刊行年の記載がないのですが、昭和39年以降のものであることは確実です。広告におなじみの「ウールマーク」がついているからです。このマークは1964(昭和39)年に制定されました。
「編みかえしがきく」と堂々と謳っていることから、それがごく一般的に行われていたのがわかります。
日本にもわりと最近までこういう文化があったことを、私たちは記憶しておいたほうがいいのかなと思います。
群ようこさんが9歳だった昭和39年のことは、「エミーグランデ新発売の年」として前にも書きました。同じ年にこんな本(雑誌付録)も出ています。
この本の中に、次のような面白い広告が出ています。
この頃の編物本には、今はない国産毛糸メーカーの広告がよく載っています。「素材が悪ければ」という言葉がありますが、実際に質の低い毛糸も多かったのでしょう。
同じ本に載っている広告をもう2点ごらんください。裏表紙は掃除機です。
上は明白にオリンピックを意識した広告。第1回東京オリンピックはこの年の10月10日に開幕しました。この本が出たのは10月1日、まさに直前です。日本が沸き立っていたのがわかります。
群さんは次のようにもお書きになっています。
上の文章が書かれたのは昭和の終わり頃です。日本はぐんぐん経済成長をとげ、あらゆる糸が豊富に手に入るようになりました。その裏には、失われたものもあったわけです。