加速主義はどこから来たのか。
皆さんは加速主義(Accelerationism)という言葉をご存じだろうか。
加速主義とは、木澤佐登志さんにより最近日本に紹介されたばかりの新しい思想である。紹介されるやいなや(多くの哲学オタクが愛読している)現代思想の6月号で、すぐさま特集が組まれるほどの衝撃を界隈に与えた。(私もそのミーハーの1人なので、現在このようなnoteを書いています。)
さて、その加速主義をググるとwikiにはこうかいてある。
「加速主義(かそくしゅぎ、英語: accelerationism)とは、政治・社会理論において、根本的な社会的変革を生み出すために現行の資本主義システムを拡大すべきであるという考えである。」
.......まあ、要するに、資本主義というアクセルをさらに踏み込んで、資本主義をぶっ壊せ!!!(NHKをぶっ壊すのノリで)というわけである。
「資本主義が壊れる?はて、どこかで聞いたことがあるような.......」という方もいるだろう。
その通り。資本主義の破滅を予言した思想家が二人いる。
一人は、皆さんご存知のカール・マルクスさんである。
彼はこういった。「資本主義はその矛盾ゆえに滅びる」と。
彼の妄言(?)を信じて、ロシアの大地に爆誕したのがかの悪名高きソビエト連邦(ソ連・旧ロシア)であり、天安門広場に掲げられているあの有名なはげたオッサン(毛沢東)がマルクス主義を中国版にアレンジして作り上げたのが中華人民共和国(今の中国)である。
彼らは資本主義の次のステージとして、社会主義・共産主義を妄想し、実際に社会主義・共産主義国家を作り上げた..............が、のちに、彼らが誇大妄想家であったことは歴史が証明した。
もう一人、資本主義の破滅を予言した人物がいる。その名はヨーゼフ・シュンペーターである。彼の名前に聞き覚えのない人も多いだろうが、「イノベーション」という単語には聞き覚えがある人もいると思う。そう、私たちが普段何気なく口にする「イノベーション」「発明」「技術革新」といった言葉は彼の影響によるものであり、AIなどの技術革新によって社会が進歩するという発想はまさに彼のイノベーション理論が元ネタになっている。
余談だが、古典的な哲学書を読むと現代から見ると「当たり前だろこんなの」といったものが割と多くある。これは古典的な哲学書が幅広く長年読まれてきたために、一般常識・一般教養として定着しているからである。なので、実のところいわゆる古典的な哲学書を読む意味はほぼないし、時間の無駄である。(おい)
さて、彼(シュンペーター)も「資本主義はその成功ゆえに自戒する」と資本主義の終焉を予言している。
冷戦(ソ連VSアメリカ)の結果、社会主義という壮大な実験が失敗に終わったことは皆が知るところだろう。(ソ連が崩壊して、資本主義の方が社会主義よりマシだと明らかになった。)
冷戦終結後、フランシス・フクヤマが『歴史の終わり』で、資本主義陣営の勝利を宣言した事が象徴的である。こうして、人類には資本主義以外に取り得る選択肢がなくなったのである。
ところが、フランシス・フクヤマの『歴史の終わり』が出た頃に、フランスを代表する哲学者であるジャック・デリダが共産主義・社会主義の亡霊の出現を『マルクスの亡霊』という本で予言した。
そして、それは現実となった。まさにマルクスの『資本論』をもじったトマ・ピケティの『21世紀の資本』によって。
格差社会が再び社会問題となり、アメリカでは民主社会主義者を自称するバニー・サンダースが、日本では山本太郎が出現した。
バニー・サンダースと山本太郎は資本主義による格差問題を受けて左派・リベラル側から出現した解決策であるが、解決手法は「再配分」、すなわち、「金持ちからお金を取り、貧乏人に分け与える」という方法である。
しかし、このような社会主義的方法では、資本主義を克服する事は出来ない事が歴史的な経験則から分かっている。そこで、それらの左派的な手法とは異なる方法で、資本主義を超越しようとして登場したのが「加速主義」である。
左派加速主義のNick SrnicekとAlex Williamsは『Inventing the Future: Postcapitalism and a World Without Work』(タイトルを(私が)日本語に訳すると『未来を発明する ポスト資本主義と働かない世界!』となり、個人的には最高にクールだと思う!無職バンザイ!)で、これまでの左派・リベラルを批判し、以下の4つの基本的な要求を掲げている。
1.Full automation of production(生産の完全自動化)
2.The reduction of the working week (労働時間の削減)
3.The provision of a basic income (ベーシックインカムの供給)
4.The diminishment of the work ethic (職業倫理の減縮)
https://cosmonaut.blog/2018/09/15/the-future-is-the-past-the-failure-of-accelerationism/
ここにあるのは、資本主義の機能不全を「再配分」ではなく、技術革新(シンギュラリティ)によって乗り越えるという考えである。シンギュラリティという人間を超えたポストヒューマンAIの未知なる技術・力によって資本主義から抜け出すというものである。
人間を乗り越えた世界とは果たしてどのような世界なのか。
フランスの哲学者であるミシェル・フーコーが『言葉と物』の中で、述べた言葉を紹介してこのnoteをしめようと思う。
「人間は波打ち際の砂の表情のように消滅するだろう」と。
参考映像
BS1スペシャル「欲望の資本主義2019~偽りの個人主義を越えて」
我らがやくしまるえつこさんがナレーションを務めているので、××である。毎年1回放送される欲望の資本主義シリーズは面白いのでオススメです。