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王神愁位伝 第3章【鳥界境の英雄】 第4話
第4話 おかえり
ーー前回ーー
ーーーーーー
——太陽城 空の宮殿 医務室
「ゔわぁぁぁぁぁぁぁぁあ゛~!!!ざっぢゃぁぁぁぁあ゛~~!!!!お゛ぎでよがっだ~~!!!」
「ぁあ・・・本当によかった・・・・・・・・が、お前はもう少し静かにしろ!」
”ギュッ”
「やだ!!!さっちゃんから離れるもんか!!」
「離れろ!!お前の鼻水が、幸十の服にべっとりついてるだろ!!!」
先程、病室に来た2人のコウモリが伝えたのか、物凄い勢いで医務室に入ってきた琥樹。号泣しながら幸十に抱きつき、幸十の服はびしょ濡れになっていた。その後少し遅れて、コウモリ部隊副隊長のバンが追いかけて来て、今の状況である。
横ではタマゴたちがいそいそと、メリー班長が来る前に診察の準備を始めていた。
「本当に・・・本当に・・・心配したんだ。俺は反対したんだよ?坂上さんが本部に戻るって言った時、タマゴたちに殺されちゃうって力弁したのに、誰も聞いてくれなくて・・・。よかった・・・。2ヶ月近く意識が戻らないから、タマゴたちが変な薬を入れてんじゃないかって、毎日頑張って監視してたんだから!」
「お前は単に、任務に行かないように逃げてただけだろう。」
バンが軽く琥樹の頭をはたくも、琥樹はへへっと笑う。
「・・・俺、2ヶ月寝てたの?」
幸十が頭を傾げながら聞いた。幸十にとって、太陽の泉に浸かっていたのが、先程の感覚であった。
「そうだよ!覚えてない?さっちゃん、太陽の泉入ったら、血まみれになっちゃったんだよ!あのおじ・・・うぅん・・・夕貴軍隊長が近くの医者まで連れてってくれたり、急いでシャムス軍本部に戻って治療をお願いしてくれたんだけど、どの医者も処置の施しようがないって・・・ぐすっ・・・。その後色々あって、坂上さんがシャムスまで来て、本部に帰ってきたんだよ。」
幸十は、琥樹の説明を表情変えずじっと聞いていると、バンが心配そうな表情で聞いた。
「大丈夫か?メリー班長があそこまで苦戦してるのは始めて見たが・・・。気分は?」
「うん、たぶん大丈夫。ココロと洋一は?」
「え・・・ぁあ・・・うん。」
突然口を濁すバン。
よくよく見ると、バンはいつも以上に目の下にクマを作っており、どこかで戦ってきたのかと思うほど、紫紺の隊服はボロボロだった。また、数日お風呂にも入っていないのか、ツンとした香りが周囲に立ち込めた。
そんなバンをじっと見る幸十に、琥樹が耳打ちした。
「それがさ、なんか色々大変そうなことになっちゃってね。」
「大変?」
「・・・はぁ。一生懸命戦ってくれたお前たちには、本当に申し訳ないんだがな。今回のシャムスでの出来事を、参部・・・参謀本部が素直に受け入れなくてな。如何せん、月族と戦闘があったなんて事になれば、戦争が再開されると恐れているんだろう。」
バンはボサボサの頭を掻きながら続けた。
「今回、月族に手を貸して、ロストチャイルドを起こしていた達地方庁長も、夕貴軍隊長に止められながらも、経緯全てを参謀本部に話したんだ。・・・だがな、頭がおかしくなったと、参部の隔離施設に入れられそうになってな。そこをなんとかするって坂上が言い出してな・・・。ココロや洋一を中心に、戦術班がかけずり周ってなんとか・・・まぁ・・・最終的には夕貴軍隊長の力業・・・ぅ゙うん。とにかく、地方庁長の職は辞して、一旦シャムスの病院で養生している。他のイタルアサーカス団員は全員死亡。達も身体がボロボロで、かろうじて生きている状態だそうだ。先も長くないと・・・」
バンは苦虫を噛んだように、表情を歪ませた。
幸十は話を聞いて、シャムスでの出来事を少しずつ思い出していた。
「あと、地方庁長から幸十に、”言伝”を預かってるぞ。」
「ことづて?」
バンのその言葉に、幸十は首を傾げた。
「・・・・『生きて待ってるから、お願いします。』だと。」
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『君が・・・連れてきて・・・くれるのか?コハルを・・・助けて・・・くれるのか?』
『いいよ。その代わり、生きててよね、おじさん。』
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その言伝を聞いて、幸十は達とした約束を思い出した。
「・・・そうだ。俺、あのおじさんと約束したんだった。」
そう言う幸十の様子を、何やら探るように見るバン。
「・・・聞いたぞ。地方庁長の娘さんのこと、知っているんだな。その子もお前のいた所で、奴隷として一緒にいたのか?」
「うん。喋ったことないけど、一度傷に薬を塗ってくれた。スースーするやつ。」
「・・・そうか。」
幸十がいた場所に、消えた子供たちがいる可能性が高まり、頭を悩ませるバン。
(こりゃあ・・・坂上が言っていたことが、現実味を帯びてきたってわけか・・・)
「バンさん、あんまり頭かかないでよ。フケが飛ぶ。」
頭を悩ますバンをよそに、嫌そうに幸十に抱きつき言う琥樹。
"ガシッ"
「ぎゃ!」
悪態つく琥樹の頭を強く掴みながら、バンはふと思い出した。
「そうだ、幸十。お前、マダムを倒したんだってな。ココロは濁していたが、セカンドの力か?」
「・・・どうだろう?」
「・・・マダムはどうやって倒したんだ?」
「んー・・・、何となく蹴ったら、ぱんっ!ぶあーって。」
「・・・・・。」
幸十が腕を広げて伝えるも、バンも琥樹も困惑した表情で幸十を見た。
「・・・まぁ、もう一度”能探”にかけてみるか。セカンドだとするとなぁ・・・色々申請とか承認とかやっかいなんだよなあ。違ったら面倒なことになるし、慎重に調べねぇと・・・」
バンが、死んだ魚の目のように、虚な表情で話していると・・・
"バァンッ!!!!!"
「え!何!マダム?!?!!」
何やら勢いよく、医務室の扉が開かれた。
・・・と同時に、複数の足音が駆け足でこちらに近づいてくる。
「「幸十/サチ!!!!」」
そこには走ってきたのか、息を切らしながら必死な表情で幸十を見るココロと洋一がいた。
「あれ?お前ら、まだ本部会議・・・」
「色んな意味で終わった!!」
「はぁ?」
バンの質問はそっちのけで、2人の視界には幸十しか映っていないようだ。幸十の近くまでズカズカ歩いて行くと・・・
"ガシッ!"
「?」
2人は幸十の肩を掴み・・・
「幸十、目が覚めて良かった!」
「ホンマよかった!」
「え、何、なんか2人、目が血走ってない?」
「黙れ琥樹。いいか、幸十。お前は今日からセカンドだ。」
「・・・は?」
「そや、サチ。いいか、サチはセカンドや。」
「?俺はプライマ・・・」
「「違う/ちゃう!!セカンドだ/や!!!」」
突然の宣言に、呆然とする3人。
必死に言い張るココロと洋一に、バンが止めに入った。
「ちょっ・・・ちょっと待て!何で幸十をセカンドにしたがるんだ!セカンドを所属させるとなると、色々申請・承認を経て、王の許可が必要だろう?それに、能探の調査結果が正式に出てないんだ。下手に報告したら、虚偽報告として罰せられ・・・むぐっ?!」
話している途中で、バンの口を手で塞ぐココロと洋一。
「——バンはん、もう遅いで。」
「ぁあ、今更です。」
”ッガ!!”
「・・・っぷは!は、はぁ?!遅いって・・・・・・・・・・・・・っ!」
——バンは、頭の中で思った。
先程まであった本部会議
+
2人の奇行
+
一緒に出席していたのは坂上(=何をしでかすか分からない危険人物)
・
・
・
・
「・・・・おい、まさか幸十がセカンドだと、本部会議で宣言したとかじゃ・・・」
「はい。」
「え・・・い・・・言ったのか?」
「はい。」
「い・・・言っちゃったのか?」
「言っちゃいました。坂上さんが。」
「あのバカが?」
「言ったで。坂上はんが。」
「本当の本当に言っちゃったのか?」
「はい!皆さんに高らかに宣言してきましたよ~!太陽族に、待望の!セカンドが1人、めでたく爆誕です!」
「・・・・・。」
その声に、全員がギギギ、と油切れのロボットのように振り返ると、いつのまにか坂上が、背後でガッツポーズを決めていた。しかも、混乱する3人に追い討ちをかけるかの様に、満面の笑みで言い放つ。
暫く、医務室に異様な静けさが続いたが・・・
「おーまーえー!!!!能探で再調査するって言ったがろうがーーー!!!」
怒りに燃えるバンは、勢いよく坂上を掴み上げ、ブンブンと振り回し始めた。
「ちょっとバンくん。落ち着いて、上官にその言い方は・・・・」
「言い方もくそもあるかー!!!十分に調査してないのに報告するって、馬鹿か!お前は!脳みそ、太陽に干からびたのか!!本当に馬鹿か!!」
「あ、幸十くん、おはようございます。目が覚めてよかったです。今日はいい天気ですね!」
「おい!話ずらすな!!もし幸十がセカンドじゃなかったら、俺ら全員、虚偽報告で処罰だぞ!!いやセカンド関連なら罰じゃない!処刑だ!!!死んじゃうんだぞ!!!」
「大丈夫ですよ~。なんとかなりますって。多分。」
「多分ってなんだーーー!!!」
血が上りすぎたのか、バンは近くにあった椅子に座り込む。
まるで、全ての気力を使い果たした抜け殻のようだ。
「あー・・・なんだこれ・・・なぜ俺の上官になるやつは、いつも隕石か台風みたいな厄介ごとしか持ってこないんだ・・・」
そして、虚な目で幸十を暫くじっと見ていると・・・・
「あー・・・、もうセカンドでいい気がしてきた。」
「え」
「そうですよ、幸十はセカンドです。顔にもそう書いてあります。」
「セカンド、セカンド。良かったなサチ。全身セカンドや。」
「セカンド♪セカンド♪幸十はセカンド♪」
「え、ちょっと!!みんな、適当すぎるよ!!!さっちゃん、可哀そうだよ!!!ってか、タマゴたちは黙ってて!!!!」
そんな琥樹の叫びも、疲れ切ったバンとココロ、洋一には響かない。
「良かったな、琥樹。セカンド1人増えたぞー。」
「ちょっと!!しっかりしてよ!!」
「まぁまぁ、幸十くんの体調が良くなったら、念のため探査機で確認しましょう。」
「・・・・。」
坂上のその言葉に・・・・
「だから順番が違う言ってんだろーー!!」
バンの怒りが再燃し、坂上に掴み掛かった。
「ちょっと、あんたら!!!病室で何騒いでるんだい!!!」
「ひぃ!!おばばっ!!」
太陽族研究部医療班の班長、メリーが病室に入ってくるなり、騒いでいたコウモリ部隊に怒鳴りつけ、幸十以外出て行くよう追い出す。
坂上は追い出されながらも、思い出したように幸十の方に向かって言った。
「あ、幸十くん!遅くなりましたが、おかえりなさい!」
そう言い残して、バンたちと一緒に部屋から追い出されて行った。
シンと静かになった医務室。
「・・・おかえ・・り・・・?」
初めて言われたその言葉に、幸十は心が少し、むずかゆくなるのを感じていた。
ーー次回ーー
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