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王神愁位伝 第3章【鳥界境の英雄】 第8話
第8話 セカンドの基礎 by澄徳
ーー前回ーー
ーーーーーー
”チュンチュンッ・・・”
-翌朝-
”ズーーーーーン・・・”
「——おいじじい、だからなんで俺まで・・・」
早朝から叩き起こされた幸十と伊久磨。
何やら白い半被のようなものを着させられると、澄徳の屋敷の前に出された。
「セカンドにとって、朝の時間は大切じゃ。セカンドはプライマルより頭の働きが弱いと、科学的にも証明されとる。じゃが、朝は身体がリセットされ、比較的頭の働きも良くなる。そんな時に身体だけじゃなく、頭にも必要な情報を入れんとな。」
「だから、俺はセカンドじゃねぇし。」
澄徳は、伊久磨の言葉など気にせず、自身の頭を指しながら言った。そして、屋敷の隣にある、物置小屋から黒い板を持ってくると、白い棒で書き始めた。
「幸十よ。セカンドとは何か、知っとるか?」
澄徳の問いかけに、幸十は少し考えた。
「・・・力を持ってる人?」
その回答に、澄徳は黒い板に何やら貼り付けると、幸十たちに見せた。
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「もう少し詳しく言えば、四つの力のいずれかを扱える者のことじゃ。"大地を焼き尽くす火"・"大地を飲み込む水"・"大地をかける風"・"大地に衝撃を与える雷"。この中のどれか一つを・・・じゃ。ちなみに、わしは風を扱うセカンドじゃ。」
「琥樹と一緒だ。」
幸十は、シャムスで琥樹が風の攻撃をしていたことを思い出す。
「なんじゃ、お前さんたちの部隊にも風使いがいるんか?」
「最弱のな。」
「それなら、わしのところに連れてくるとよい。鍛えてあげよう。」
「逃げ足だけは、誰にも負けない奴だから無理だ。血錬の”け”の字を聞いただけで、どこか遠くに行きやがる。」
「ひゃっひゃっひゃ!伊久磨でも捕まえられんなら、そやつも中々な強者じゃな。」
澄徳の言葉に、伊久磨は呆れるばかりであった。
「話を戻すが・・・・今の時代となっては、セカンドは戦争の戦力としてされとるが、元はこの世を豊かにするため、神々が人類に力を与えたとされとる。」
「ゆたか?」
「そうじゃ。例えば、お前さんらが昨日入ったお風呂。あれは、水を火で沸かす必要があるんじゃが、火を扱えるセカンドがいれば、一々火打ち石を使わんとも、一瞬で火をたける。そして、水を扱えるセカンドがいれば、一々川から水を汲まずとも一瞬で浴槽に水をはれる。これらは一例じゃが、要は人の生活に必要な根源が簡単に扱えれば、暮らしやすくなるってことじゃ。」
「俺も、どれか使えるってこと?」
「たぶんな。」
「なんじゃ、昨日からその曖昧な言い方は。」
「こっちにも事情があんだよ。」
訝しげに聞く澄徳に、伊久磨が濁す。
「その様子だと、まだ力を使ったことはないんか?」
「うーん、たぶん。一応、マダムは倒せた。」
「なんじゃと?じゃあ、どれか使ったはずじゃ。どうやって倒したんじゃ?」
澄徳の問いに、考える幸十。
「こう・・・ドンっ、ばーん!って。」
手を広げながら真剣に言う幸十だが、澄徳と伊久磨は困惑した表情を浮かべた。
「・・・おい、じじいなら分かんだろ。」
「ふむ。全く分からん。」
澄徳は咳払いすると、黒い板の文字を手で消し、再び何か書いたり、貼り付けたりし始めた。
「たぶん、まだ力の構造が分かってないからじゃろう。セカンドの力の根源はなんじゃ?伊久磨。」
「血だろ。」
「血?」
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「そうじゃ。わしらの身体に流れてる血。ここにセカンドの力が保有され、一緒に流れとる。ほら、太陽城にあるだろう・・・あれ・・・えっと・・・あれじゃ、あれ・・・」
「・・・能力探査機か?」
「そうじゃ!」
「ぼけじじい。」
"バシンッ!!"
幸十の隣で、澄徳に思いっきり叩かれ、うずくまる伊久磨。
咳払いをすると、澄徳は気にせず続けた。
「能力探査機で出力される値が、血に保有されるセカンドの力量じゃ。量は個体差があっての。多い者もおれば、少ない者もおる。増やしたり減らしたりもできん。神から与えられた力の量は、わしら人間が変えられなければ、変えてはいけないものじゃ。そうじゃ、幸十はどのくらいじゃった?」
「・・・・・・。」
その問いに、途端に黙る幸十と伊久磨。
「なんじゃ、そんな少なかったんか?」
「いや・・・」
「 ”ソクテイフノウ” って出てたらしい。」
「おいバカ!」
焦る伊久磨に、澄徳は何やら納得した表情をした。
「は~~、なるほどじゃ。だーから、伊久磨が濁してたんじゃな?能力探査機では、力量が出力されないが、マダムを倒したから、たぶんセカンドじゃろうってことで、とりあえず血錬してみて、どうなるか見たいってとこじゃな?」
セカンドの虚偽報告は、重罪にあたるものと知ってる伊久磨は、育ての親である澄徳にもはっきり言えないのか、気まずそうに視線をそらす。
そんな伊久磨に、澄徳はため息をついた。
「・・・まったく。そりゃ、軍部に正式に血錬の依頼が出来ない訳じゃな。お前さんらの隊長も、噂どおり狡賢いのう。ひゃっはっはっはっは!!」
豪快に笑う澄徳。
「全く・・・可愛い可愛い孫たちを出されちゃ、こっちも断るに断れん。というより、正式に依頼もしてないってとこも上手いのう。・・・まぁ良い。わしもお前さんに興味が湧いたから、ビシバシ鍛錬してやろう!」
「うわっ、いらんスイッチ入った気が・・・」
伊久磨が嫌そうな顔をしていると、澄徳は、事態を把握しきれていない幸十の全身を値踏みするように見つめ始めた。
「——測定不能か・・・。ふむ。・・・うまく身体が機能してないからじゃろうか?」
「・・・?どういうこと?」
すると、澄徳は再び、黒い板の文字を消して書き始めた。
「セカンドの力を上手く使うには、重要な三大要素があるんじゃ。」
「さんだい・・・ようそ?」
「そうじゃ。それが上手く機能できてない場合、稀に探査機が上手く動かなかったり、力を出せなかったりするんじゃ。要素の一つは、先程話した”血”じゃ。これは大大大原則の要素で、根源じゃ。血にセカンドの力が流れてなければ、そもそも力を扱えないからな。ほれ、伊久磨。他二つはなんじゃ。」
澄徳に聞かれ、ため息をつきながら嫌そうに答える。
「・・・”気”と”体”だろ。」
「お、よう覚えとるな。」
「うっせ。」
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澄徳は、黒い板に書いた内容を2人に見せた。
「”体”は、身体じゃ。いわゆる、セカンドの力が流れている血を、受け入れる器のようなもんじゃ。例えば・・・・」
澄徳は、奥にあった瓶と、昨日のお風呂のあまり湯を、桶に入れ持ってきた。
そして、瓶の隣にあった大きな葉っぱでコップのような形をつくった。
「この瓶。瓶に水を入れると・・・・特にこぼれないな。」
「うん。」
すると、今度はコップ型にした葉っぱに、あまり湯を入れようとする澄徳。
「じゃあ、コップの形にした葉っぱに、水を入れると・・・」
"ビシャ!!"
即席で作ったものだったため、葉っぱの隙間から水が溢れ、入れ続けるとコップの形は跡形となく消え、ただの水浸しの葉っぱとなった。
「崩れてしまったな。これと一緒じゃ。」
「・・・コップが・・・・”体”?」
幸十の言葉に、澄徳は嬉しそうに頷いた。
「そうじゃそうじゃ!!ひゃっひゃっひゃ!お前さん、セカンドの割には、頭よいのぅ!」
「誰でもわかんだろ。」
悪態をつく伊久磨の口に、葉っぱを詰め込みながら、澄徳は続けた。
「その通りじゃ!この葉の様に、軟弱な器では力を受け入れられず力を放出した状態になり、結果身体に力が残らないんじゃ。しかしこの状態で、無理して力を溜め込もうとすると、身体が壊れてしまう。じゃから、力を放出するんじゃ。幼子たちは、身体がまだ出来上がってないから、セカンドの力があったとしても、知らぬうちに力を放出しておるんじゃ。じゃが、ある程度身体が作られ、力を溜められるタイミングが自ずと来る。この瓶のようにな。それが、覚醒のタイミングじゃ。」
澄徳は幸十の痩せ細った腕を掴み、苦虫を噛んだかのような表情をした。
「幸十はどんな生活をしたら、こんなガリッガリになるんじゃ?こんなんでは、力を溜めるに溜められんじゃろう・・・。」
「じゃあ、身体が頑丈になれば、セカンドを使えるの?」
「力を溜められるようにはなるじゃろう。力を使うには、もう一つの要素、”気”が重要じゃ。”体”が力を溜める器であれば、”気”は力をコントロールする操縦官のような役割をしとる。例えば・・・・」
すると澄徳は手のひらを空に向けると目を瞑った。
そして・・・・
"シュュュュュン・・・・"
「わっ」
澄徳の手のひらには、何やら小さな風のかたまりが発生した。
「わしの手に力を集めて、力を放出しておる。これが、わしのセカンドの力じゃ。無造作に風ができておるじゃろう?じゃが、これにわしの”気”を使うと・・・・」
"シュルン!"
「!」
澄徳の手のひらで吹いていた風が固まり、一つの小さな竜巻ができた。
「こんな風に、力の形や威力・量をコントロールすることで様々な攻撃を、適材適所に放つことができるようになるんじゃ。ちと、コツが必要じゃがな。」
「わぁ・・・」
普段から表情が変わらない幸十だが、澄徳の手のひらで発生している小さな竜巻を、瞳をキラキラさせてじっと見つめる。そんな幸十の表情に満足げな表情を浮かべる澄徳。
「ひゃっひゃっひゃ!どうじゃ、すごいじゃろう?お前さんにセカンドの力があるかどうかは、今は誰も分からん。じゃが、この”体”と”気”が、上手く作用できてないから、”測定不能”の結果になった可能性がある。この二つがあって、”血”に流れるセカンドの力が使えるようになるんじゃ。じゃから・・・・」
澄徳は黒い板の、とある文字を強調するようにまるで強く囲うと・・・・
"バン!!"
「先ずはこの1ヶ月で、強固な器をつくるぞ!!”体”を鍛える血錬じゃ!!!」
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張り切る澄徳に、伊久磨は終始ため息をつき、どことなく不機嫌だった。